「おやおや…彼は先日の…」
アリババくんだ。アリババくんが来てくれた。
それだけでこんなに心強く感じるのは何故だろう。
しかし、そこにもやはりアラジンの姿は無かった。
「ふっ…ふざけるなでし!!誰があいつを城に入れたんでし!!」
アブマドはどうやら私どころではなくなったらしい。兵士と銀行屋に指示を出し、アリババくんを止めに行かせた。
そして私をもう一度見て、杖を突きつける。
「貴様の処分は後でし。命乞いの言葉でも考えておくがよい」
『…アリババくんは負けないし、私は命乞いなんて絶対しない』
私は倒れたままのターニヤさんに近付き、もう一度彼女を見た。
ダメだ。泣いてはいけない。本当に泣きたいのは彼女だ。
「リホ様」
名前を呼ばれて銀行屋の方を見る。
相変わらず嫌な笑みを浮かべていた。
「彼女に構っている暇はないのでは?」
『……どういう意味』
銀行屋の視線が外へ向く。それにつられて私も同じ方向を見た。
そして私は言葉を失う。
『…何あれ』
宮殿から少し離れた鉄塔。そこに光り輝く何かが確かに見えた。
あの光は、間違いなくルフが放つものだ。
「貴女の"オトモダチ"、どうやら大変なことになっているようですねえ。……このままでは…」
意味深に言葉を止める銀行屋。
何なの。こいつは一体何を知ってるの。
この前だってそうだ。こいつは私より私を知ってる風だった。正確に言えば"この世界の私"だが。
『…絶対戻ってくるから』
覚めることのない眠りについた彼女にそう告げ、私は大広間を後にした。
*
宮殿の周辺に集まった人を掻き分け、塔に入る頃にはルフの光が倍以上になっていた。
人の気配がする部屋に向かうと、女の人が数人と何日かぶりのジャーファルさんが血相を変えてアラジンを見ている。
私に気づいたジャーファルさんが目を丸くした。
「リホさんが何故ここに!?…その格好は…」
自分の服を見る。ターニヤさんを抱いた時に着いた血が赤黒くなっていた。
『私の血じゃないから大丈夫です』
「…一体宮殿で何があったんですか?」
『…説明は後で!それよりアラジンは!?』
ベッドに横になるアラジンに駆け寄る。
眠るアラジン。その顔は赤みを無くし、青白いようにも見える。
手に触れると、ひやりと冷たい。
『ジャーファルさん…これ…』
「…さっき大きなルフ鳥が飛んで行った途端様子が…」
『……うそ』
そんな、まさか。
私はアラジンの手を握る。
そんなわけない、アラジンが、彼が、
死んじゃうなんて。
アラジンの寝顔が、血に濡れたターニヤさんと被る。
だめ
やめて
もうこれ以上、私の、
「こんにちは!おねいさん!」
「リホおねえさん、おねえさんは不思議だね」
「ここでおねえさんと会えたのはルフに導かれた運命なんだよ」
「だから、僕らと一緒にいこう」
大切なひとを奪わないで。
ひらひらと金色に輝くルフが視界の端で羽ばたく。
アラジンが綺麗だと言ってくれた私のルフ。
でもこんなの、何の意味もない。こんなの、このまま、誰も助けられないままじゃ、
『国も救えない、こんな子供一人さえ助けられない…何がルフよ…』
ぽたり、と涙が落ちた。
金色のルフはアラジンの手を握る私の手の甲へ止まる。
『助けて…』
呟いた声に微かにルフが反応した。
運命を導くルフなら、どうか彼を…
『アラジンを助けて!!!』
ぶわ、
視界が光に包まれる。遠くの方でジャーファルさんが私の名前を呼んだ。
「来てしまうのかい」 | |
「来てしまうのかい」 |
「君が傷付くかもしれないのに」 | |
「君が傷付くかもしれないのに」 |
誰かの声が聞こえる。とても優しく、懐かしい声だ。
うん、それでも行くよ。
心の中で返事をして、私は目を閉じた。
(光が指す方へ、私を導いて)