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「おやおや…彼は先日の…」



アリババくんだ。アリババくんが来てくれた。
それだけでこんなに心強く感じるのは何故だろう。
しかし、そこにもやはりアラジンの姿は無かった。



「ふっ…ふざけるなでし!!誰があいつを城に入れたんでし!!」



アブマドはどうやら私どころではなくなったらしい。兵士と銀行屋に指示を出し、アリババくんを止めに行かせた。
そして私をもう一度見て、杖を突きつける。



「貴様の処分は後でし。命乞いの言葉でも考えておくがよい」

『…アリババくんは負けないし、私は命乞いなんて絶対しない』



私は倒れたままのターニヤさんに近付き、もう一度彼女を見た。
ダメだ。泣いてはいけない。本当に泣きたいのは彼女だ。



「リホ様」



名前を呼ばれて銀行屋の方を見る。
相変わらず嫌な笑みを浮かべていた。



「彼女に構っている暇はないのでは?」

『……どういう意味』



銀行屋の視線が外へ向く。それにつられて私も同じ方向を見た。
そして私は言葉を失う。



『…何あれ』



宮殿から少し離れた鉄塔。そこに光り輝く何かが確かに見えた。
あの光は、間違いなくルフが放つものだ。



「貴女の"オトモダチ"、どうやら大変なことになっているようですねえ。……このままでは…」



意味深に言葉を止める銀行屋。
何なの。こいつは一体何を知ってるの。
この前だってそうだ。こいつは私より私を知ってる風だった。正確に言えば"この世界の私"だが。



『…絶対戻ってくるから』



覚めることのない眠りについた彼女にそう告げ、私は大広間を後にした。




















宮殿の周辺に集まった人を掻き分け、塔に入る頃にはルフの光が倍以上になっていた。
人の気配がする部屋に向かうと、女の人が数人と何日かぶりのジャーファルさんが血相を変えてアラジンを見ている。
私に気づいたジャーファルさんが目を丸くした。



「リホさんが何故ここに!?…その格好は…」



自分の服を見る。ターニヤさんを抱いた時に着いた血が赤黒くなっていた。



『私の血じゃないから大丈夫です』

「…一体宮殿で何があったんですか?」

『…説明は後で!それよりアラジンは!?』



ベッドに横になるアラジンに駆け寄る。
眠るアラジン。その顔は赤みを無くし、青白いようにも見える。
手に触れると、ひやりと冷たい。



『ジャーファルさん…これ…』

「…さっき大きなルフ鳥が飛んで行った途端様子が…」

『……うそ』



そんな、まさか。
私はアラジンの手を握る。
そんなわけない、アラジンが、彼が、



死んじゃうなんて。



アラジンの寝顔が、血に濡れたターニヤさんと被る。



だめ

やめて

もうこれ以上、私の、



「こんにちは!おねいさん!」
「リホおねえさん、おねえさんは不思議だね」
「ここでおねえさんと会えたのはルフに導かれた運命なんだよ」

「だから、僕らと一緒にいこう」




大切なひとを奪わないで。



ひらひらと金色に輝くルフが視界の端で羽ばたく。
アラジンが綺麗だと言ってくれた私のルフ。
でもこんなの、何の意味もない。こんなの、このまま、誰も助けられないままじゃ、



『国も救えない、こんな子供一人さえ助けられない…何がルフよ…』



ぽたり、と涙が落ちた。
金色のルフはアラジンの手を握る私の手の甲へ止まる。



『助けて…』



呟いた声に微かにルフが反応した。

運命を導くルフなら、どうか彼を…



『アラジンを助けて!!!』



ぶわ、



視界が光に包まれる。遠くの方でジャーファルさんが私の名前を呼んだ。




「来てしまうのかい」
「来てしまうのかい」

「君が傷付くかもしれないのに」
「君が傷付くかもしれないのに」



誰かの声が聞こえる。とても優しく、懐かしい声だ。

うん、それでも行くよ。

心の中で返事をして、私は目を閉じた。





(光が指す方へ、私を導いて)

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