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翌日。
昨日と同じように、紅玉様の食事を部屋に持って行った。
紅玉様は私が部屋に入ると、少し嬉しそうにして椅子に座る。
今日は変な刺青の従者も一緒だ。
「ねえ貴女、私をどう思う?」
『は?』
これはどういう意図の質問なんだろう。
へ、下手なこと言えないぞ。失礼なこと行ったら変な刺青にグサリ!だ(多分)。
とりあえず無難に 可愛い…とか言えば大丈夫?納得してくれる?
「……友達」
『え?』
「貴女、友達になりなさい」
「姫君!そのような下女に何を…!」
「夏黄文は黙っていてちょうだい。どうせ嫁げば自由は無くなってしまうわ。宮殿の中くらい気のおける話し相手が欲しいの」
刺青のある従者…夏黄文さんは ぐ、と食い下がった。
紅玉様の言い分に、私は何だか可哀想になってしまう。
彼女は武の道を歩みたかったと言っていた。本当は自分の国を守るために戦いたかったんだ。
けれどその願いは叶わなくなった。だったらせめて、それ以外の願いは叶えてあげたい。そう、思った。
何より、不安気に私の答えを待つ彼女に断わるなんて出来るわけがない。
『分かりました』
「なっ!?」
「本当!?」
紅玉様のぱぁっと明るくなる表情とは逆に夏黄文さんは絶句していた。
『よろしくお願いします、紅玉様』
「…その、よそよそしい言葉は何とかならないのかしら?」
「姫君!お戯れが過ぎますぞ!ただの下女にそんな無礼な態度を取らせては…」
「夏黄文!彼女は私の友達なのよ!」
さすがに私も言葉遣いは今のままの方がいい気がする。
だけど紅玉様はそれでは納得してくれなさそうで。
『…分かった。紅玉ちゃん、これからよろしくね』
そう言うと、彼女があまりに嬉しそうに笑うから。
私は、紅玉ちゃんと友達になった。
*
「友達ィ?」
『そう』
紅玉ちゃんの食事を下げた後、ジュダルの食事を持って部屋に入った。
さっきの紅玉ちゃんとの会話を話すと馬鹿にしたように笑われた。
「あのババア、んなくだらねぇこと考えてたのかよ」
『一応上司じゃないの?』
ババアって。どう見ても私やジュダルよりは年下な気がする。
彼女は、婚儀と同時に調印される条約のことを知っているんだろうか。お金のために国民を奴隷にするなんて、紅玉ちゃんが知っているとは思えない。
私の中で紅玉ちゃんは、噂に聞くような悪い国の皇女とはイメージが違っていた。
「お前とシンドバッドはこの国を何とかしてぇみてーだけど、もう無理だぜ」
どういう意味だ。
そんな意を込めてジュダルを見やる。寝転んでフルーツを齧るこいつが恨めしい。
ていうか相当回復しているように見えるんだけど気のせいか。
「あのブタ野郎は親父達の言いなりだ。しかもバルバッド(ここ)には黒い器が揃ってる」
『黒い器?』
それって、黒いルフと何か関係あるのか。
そう尋ねようとした時だった。
ドォォン!!
地響きと、何かが爆発する音。
慌てて窓から外を見ると、アブマドのいる広間から煙りが上がっていた。
何…?
『ちょっと行ってくる』
ジュダルの返事を聞くまえに、私は部屋を出た。
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