title
5
『…っ離してってば!』
中庭まで連れて来られて、腕を振り払う。さっきと違って容易く離れた手。
私はジュダルを睨んで、掴まれていた腕をさすった。
するど、じーっとジュダルが顔を近づけてくる。あまりの近さに少し後ずさった。
『な、何の用?』
「…お前、バカ殿の何なわけ?」
『は?』
バカ殿…っていうのは恐らくシンドバッドさんのことだ。
何って言われても…
「愛人とか?」
『そ、そんなわけないでしょ!?ただの知り合い!』
「ハハッ、だよなー!いくらなんでもあいつがこんな貧相な女相手にするわけねーよな!」
こ、こいつ…!!
シンドバッドさんに言われなくても関わりたかないわ!!
失礼の塊だ!!
『話はそれだけ?なら私は「あともう一つ」
スッ、とどこから取り出したのか、杖の先端を向けられる。
赤い宝石が、太陽の光に反射した。
「お前のルフ、一体何なんだ?」
『…!』
こいつ、ルフが見えるの?
ルフが見えるのは、私が知る限りでマギであるアラジンだけだ。
そこまで考えて、シンドバッドさんが言っていた、マギが他にもいるという言葉を思い出した。
そうだ、それしかない。こいつはもう一人の…
『マギ…』
「ふうん…知識ゼロってわけじゃなさそうだな」
『あんた…マギなの?』
「先に俺の質問に答えろよ。お前のルフ…何でそんな色してんだ?」
そんなこと、私が知りたい。
どうして私のルフは他と違うんだろう。
それにこいつのルフも、何でこんなに真っ黒なんだ。
『し、知らない』
「はぁああ?お前自分のことも知らねぇのかよ?」
『あんたのルフは何でそんなに黒いの?』
「ルフっつーのは、堕天すりゃ黒くなるに決まってんだろ?」
堕天?
新しい言葉だ。だけど悪い意味だということは何となく分かった。
「…まぁいいや。お前のことはシンドバッドに聞きゃ分かるだろ」
何時の間にか、ジュダルの後ろには黒い絨毯が浮かんでいた。
浮かんで…浮かんでる!?嘘!?絨毯が!?
『魔法の絨毯!?マジもん!?』
「?何言ってんだ?魔法の絨毯くらい魔法具の中じゃ珍しくも何ともねーぜ?」
よっ、と浮いた絨毯に乗ろうとしたジュダルの腕を掴んだ。
こいつ、何しに行くつもりだ。
「何だよ」
ギロリと睨まれて一瞬怯んだが、ここで負けちゃ駄目だ。
『何しに行くつもりか知らないけど、シンドバッドさん達の邪魔しないで』
「…ふうん」
ジュダルは杖の先を再び私に向けた。かと思えば、上に振りかざす。
「邪魔したら…何だってんだ、よっ!」
バチバチッ
シュゥウウ
『っ?!』
電気のような火花が散った。
けれどそれは一瞬で、すぐに煙となって消える。
い、今の…何?
「チッ、防御魔法(ホルグ)か。調子にのんなよ。魔法使いならそれくらいできて当たり前だっつーの」
力が抜けた私の腕を振り払い、絨毯が空高く飛んだ。
しまった!
『どこ行くつもり!?』
「お前の相手は後でしてやるよ!貧相女!」
あだ名はやめろ!!!
文句を言おうとしたがジュダルは声が届かない所にいた。
シンドバッドさんを探しにいくんだろう。
頼むから邪魔しませんように!
prev | next