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『…っ離してってば!』



中庭まで連れて来られて、腕を振り払う。さっきと違って容易く離れた手。
私はジュダルを睨んで、掴まれていた腕をさすった。
するど、じーっとジュダルが顔を近づけてくる。あまりの近さに少し後ずさった。



『な、何の用?』

「…お前、バカ殿の何なわけ?」

『は?』



バカ殿…っていうのは恐らくシンドバッドさんのことだ。
何って言われても…



「愛人とか?」

『そ、そんなわけないでしょ!?ただの知り合い!』

「ハハッ、だよなー!いくらなんでもあいつがこんな貧相な女相手にするわけねーよな!」



こ、こいつ…!!
シンドバッドさんに言われなくても関わりたかないわ!!
失礼の塊だ!!



『話はそれだけ?なら私は「あともう一つ」



スッ、とどこから取り出したのか、杖の先端を向けられる。
赤い宝石が、太陽の光に反射した。



「お前のルフ、一体何なんだ?」

『…!』



こいつ、ルフが見えるの?
ルフが見えるのは、私が知る限りでマギであるアラジンだけだ。
そこまで考えて、シンドバッドさんが言っていた、マギが他にもいるという言葉を思い出した。

そうだ、それしかない。こいつはもう一人の…



『マギ…』

「ふうん…知識ゼロってわけじゃなさそうだな」

『あんた…マギなの?』

「先に俺の質問に答えろよ。お前のルフ…何でそんな色してんだ?」



そんなこと、私が知りたい。
どうして私のルフは他と違うんだろう。
それにこいつのルフも、何でこんなに真っ黒なんだ。



『し、知らない』

「はぁああ?お前自分のことも知らねぇのかよ?」

『あんたのルフは何でそんなに黒いの?』

「ルフっつーのは、堕天すりゃ黒くなるに決まってんだろ?」



堕天?
新しい言葉だ。だけど悪い意味だということは何となく分かった。



「…まぁいいや。お前のことはシンドバッドに聞きゃ分かるだろ」



何時の間にか、ジュダルの後ろには黒い絨毯が浮かんでいた。
浮かんで…浮かんでる!?嘘!?絨毯が!?



『魔法の絨毯!?マジもん!?』

「?何言ってんだ?魔法の絨毯くらい魔法具の中じゃ珍しくも何ともねーぜ?」



よっ、と浮いた絨毯に乗ろうとしたジュダルの腕を掴んだ。
こいつ、何しに行くつもりだ。



「何だよ」



ギロリと睨まれて一瞬怯んだが、ここで負けちゃ駄目だ。



『何しに行くつもりか知らないけど、シンドバッドさん達の邪魔しないで』

「…ふうん」




ジュダルは杖の先を再び私に向けた。かと思えば、上に振りかざす。



「邪魔したら…何だってんだ、よっ!」



バチバチッ

シュゥウウ



『っ?!』



電気のような火花が散った。
けれどそれは一瞬で、すぐに煙となって消える。
い、今の…何?



「チッ、防御魔法(ホルグ)か。調子にのんなよ。魔法使いならそれくらいできて当たり前だっつーの」



力が抜けた私の腕を振り払い、絨毯が空高く飛んだ。

しまった!



『どこ行くつもり!?』

「お前の相手は後でしてやるよ!貧相女!」



あだ名はやめろ!!!
文句を言おうとしたがジュダルは声が届かない所にいた。
シンドバッドさんを探しにいくんだろう。
頼むから邪魔しませんように!

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