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「こちらが今日からのお部屋と、お召し物になります」
下女さんに部屋に案内され、椅子に掛かった服に着替える。
服はもちろん下女さんと同じで、膝下の長いワンピースにエプロン。ようやくこの世界の服を手に入れたよ…
頭の中でゲームの効果音が鳴った。
「宮殿の地図はここに置いておきますね」
『はい。ありがとうございます。あの、下女さんってどれくらいいるんですか?』
「…!」
『…?』
驚いたような顔に首を傾げた。
そんなびっくりするような質問したかな…
「下女は…私と貴女のみです」
『え!?こんなに広いのに!?』
「みな、奴隷にされることを恐れて故郷へ逃げました」
『奴隷?』
奴隷のことはモルちゃんから聞いていた。私の世界にも…外国だしかなり昔のことだけど、それと変わらないものがあった。
でもそれとバルバッドと何の関係が?
「銀行屋が持ってきた煌帝国の通貨"煌(ファン)"…王はそれを大層気に入ってらっしゃるようなのです」
『…他国のお金を輸入してるわけですか』
「ええ。しかし煌は日によって価値が変わり、利子も付き、財政は更に厳しくなりました。今やその利子さえも…」
もしかして、その担保に国民を奴隷に…?
あのブタ野…げふんげふん…国王め、やっぱりろくな奴じゃない。
「バルバッド国王…アブマド王は、このバルバッドを奴隷大国にしようとしているのです」
『じゃあ あなたも逃げた方がいいんじゃ…』
「私は、この国(バルバッド)が故郷ですので。生まれ育った国を、捨てるわけにはいきません」
それに、と彼女は続けた。
「結婚の約束をしているんです。彼は王宮に仕える兵士で…」
恥ずかしそうに、そして幸せそうに笑ってみせた彼女。
こんな国でも、彼女のように幸せな未来を思い描いている人がいるんだ。
その未来のためにも、私達は何かをしなければいけない。
『…あの、名前を聞いても?』
「ターニヤと申します。リホ様」
『ターニヤさん、よろしくお願いします』
「こちらこそ」
ピィイイ
彼女のルフには迷いがない。
キラキラと、誰よりも輝いたルフだった。
*
『えーっと…ここが書庫…かな?』
日が暮れ始めた頃。私は王宮を練り歩いていた。
地図を貰ったはいいものの、字が読めないんじゃ意味がない。
私は形だけの地図を見ながら、自分の足で確かめることにした。
ターニヤさんには色々聞きたいことがあったが、彼女は明日到着する煌帝国のお姫様を迎える準備で忙しいらしい。何でも、王であるアブマドと調印式を行うのだという。
所謂 政略結婚だ。あんなのを旦那にするなんて心が広いお姫様もいたもんだよ。
「おや、貴女は…」
『…!?』
後ろから声をかけられ驚いて振り向く。
そこには先程会った銀行屋が立っていた。
びっくりした!忍者か この人!いつの間に後ろに…
…やだなー、私この人苦手なんだよね。気持ち悪いっていうか…
『ど、どうも…』
愛想笑いをすると、銀行屋はニヤリとやはり先程と同じ笑みを浮かべる。
ぐる、と彼の右目が回った気がした。
「何故、貴女が"こちら"にいるのです?」
『…え?』
「誰が呼び戻したんでしょうねえ…いや、あるいは自分で…?」
『何のこ「見ィーっけ!」
『わ…!』
腕を引かれて倒れそうになった身体を何とか堪えた。
こ、この声は…
「これはこれは神官殿」
銀行屋が少し頭を下げる。
ジュダル…とか言ってたっけ?次から次へと…
こいつとは関わるなってシンドバッドさんにも言われたし、とりあえずこの場を離れなきゃ。
『…じゃあ、私はこれで…』
「待て待て!俺はお前に用があるんだって」
『私はありません』
腕を振り払おうとしたが無理だった。
用って何よ…!
「俺にはあんの!こっち来い!」
『はあ!?ちょ、ちょっと!』
ぐいぐい、と腕を引かれてそのまま王宮の奥へ連れていかれる。
それを銀行屋が目を細めて見ていたことを、私は知らない。
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