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"霧の団"と一戦交えた翌日の夜。
時間が経つのはあっという間だった。
火事の処理をしている国軍の手伝いが終わって、アラジンのいる部屋に戻る。
『アラジン…?』
「…リホおねえさん」
遠慮がちにドアを開けると、アラジンが窓際に座りこんでいた。
やっぱり、アリババくんのことが相当ショックだったんだ。
私は心配を悟られないように近付いて、同じように座った。
そして、さっき通りかかったホテルのメイドさんから貰った果実を差し出す。
『じゃーん!さっき貰ったんだ!お腹空いてない?』
「わあ、ありがとう」
相変わらず何の実かは分からないけどきっと味は美味しいはずだ。
気を紛らわすには少し物足りないかもしれないけど。
「リホおねえさん」
『ん?』
「僕、モルさんと一緒に暗黒大陸に行こうと思うんだ」
アラジンは窓の外を見ながら笑った。寂しそうな笑みだ。
小さい子のこういう顔は心が痛んで仕方が無い。
『…アラジンは、それでいいの?』
「…………」
『私、アリババくんはやっぱりいい人だと思う』
ジャーファルさんが言っていた。アリババくんは国民に人気があると。
貧しい人達を助けるために盗賊なんかしてるんだ。
…だけど、それが本当に正しいやり方かどうかは…
「ありがとう、リホおねえさん」
コテン、と私にもたれるアラジン。
「おねえさんといると落ち着くよ」
『そう?』
「ルフが特別だからかなぁ」
私は自分のことについて色々知らないといけないことが多い。
アラジンの言うルフの色のことも、どうしてこの世界に来たのかも。
ウーゴくんに触れた時、確かに声が聞こえた。「来てくれてありがとう」って…どういう意味なんだろう。
って、今はそんなことよりアリババくんとアラジンのことを考えなきゃ。
『ねえアラジン、もう一度アリババくんと、』
ビュンッ
ガタガタッ!
言いかけて、私の横をすり抜けた何か。
一瞬風が起こり、壁に強くぶつかる物音がした。
そちらを見ると、昨日振りの彼の姿見。
『な、何!?』
「よ…よお…夜中に悪ィな…アラジン…」
『「…………」』
とりあえず逆さまに転がったままのアリババくんが座り直して、アラジンと私と向かい合う。
モルちゃんはアリババくんの後ろで仁王立ちしていた。
モルちゃん…昼間からいないと思っていたらアリババくんを探してたのか…
しばらく沈黙が続いて、耐えきれなくなった私は、アリババくんを見て笑った。
『こ、この間はありがとう』
「あ、ああ…まさかアラジンの知り合いだったなんてな…」
『…………』
「….………」
再び沈黙。
だ、駄目だ この空気…!!
大人気ないけど ここはこの三人にお任せしよう…!
私がいると話しにくいきもしれないし!
『…私ちょっと外に出てるね』
ごゆっくり〜、と笑ながら部屋の外へ出る。
ガチャリとドアを閉めて溜め息をついた。
さて、私は外の空気でも吸いにいくか。
*
『…あ、シンドバッドさん』
下の階に行くと、シンドバッドさん達も部屋から出てきたところだった。
私に気付くと、片手を上げる。
「リホ、アラジンの様子はどうかな?」
『…やっぱり落ち込んでます。今日もずっと部屋にいたみたいで…』
「そうか…ちょうど今部屋に行こうと思っていたんだが」
え!?今!?
『ちょ、ちょっと今は駄目ですかもですね…!』
今は部屋にアリババくんがいる。
シンドバッドさんが行けばアラジンとアリババくんが話し合えない。
きっとシンドバッドさんは彼を捕まえてしまう。
通せんぼをするように部屋に向かう三人を止める。そんな私を見て驚くシンドバッドさん。
「?…そんなに思いつめているのか?」
『え、ええ そりゃあもう!』
「そうか…ならば俺の冒険譚でも聞かせて元気付けよう!」
えええええ!!!
『あの別にそこまでしな「リホさん」
ジャーファルさんに呼ばれてハッとした。
引きつった顔でジャーファルさんを見ると、見たことのないような笑み。
…わあ、素敵な笑顔…
「何か隠していることがあるなら言ってください」
その時、ジャーファルさんの背後に般若が見えた。
ダメだ…こういう和やかな人が怒ったら実は超恐かったりするんだよ。
『じ、実は…』
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