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「『わ〜!ゴージャス!!』」
思わずアラジンと声をそろえてしまった。
ホテルのお姉さんに案内されて入った部屋はまさにゴージャスそのものだ。誰かそれ以外の形容詞で表せるなら表してほしい。
キングサイズのベッドが二つにキラキラとした食器が並ぶテーブル。
何ここ宮殿?この部屋だけで私の家の二倍はあるよ?
「何か分からないことがあれば、なんでも仰しゃってくださいね」
「それじゃあ おねえさん、一つ聞きたいことがあるんだけど…」
「はい、何でしょう?」
ベッドでゴロゴロしていたアラジンが、身体を起こしてホテルのお姉さんを見た。
「アリババくんて人を知らないかい?僕の友達なんだ」
ガシャン!!
アラジンが尋ねた途端、フルーツの乗ったトレイを落としてしまった。
驚いて、急いでお姉さんの方へ駆け寄る。
『大丈夫ですか!?』
「…?どうしたんだい?」
「失礼しました。その名前に少し驚いてしまいました。よく考えれば、そう珍しい名前ではありませんでしたね」
『聞いたことがある名前なんですか?』
「はい。あなたのご友人と同じ名前の者が、今 この国では有名人なもので…」
「有名人…?」
「今、"バルバッドのアリババ"といえば指すのはただ一人…」
フルーツを拾い終えて、テーブルに置く。
お姉さんがトレイを胸に抱いて、口を開いた。
「"怪傑アリババ"…この国一番の犯罪者でございます」
*
『ふー!やっとお湯につかれたー!』
さすが高級ホテル。壁が大理石な上、ライオンの口からお湯が出ている。
砂漠を歩いてた間はオアシスで水浴びしか出来なかったからなー!
風呂場にはモルちゃんと私の貸し切りだ。私は浴槽で足をバシャバシャさせる。
『モルちゃん、そんな端にいかなくても』
「…こんな広いお風呂は初めてで…」
『あー、落ち着かないよね』
私は友達と大浴場とか行ったりするから慣れているけど、この世界にはそういう文化はないのかな。
モルちゃんに近付いて横に座った。
『モルちゃんはいつ船に乗るの?』
「明日、出航の時間を聞いてみます」
『そっか、楽しみだね』
「はい」
あまり感情を表に出さないモルちゃんは、ほんの少し笑った。
可愛いなあ。船に乗ってから大丈夫かなモルちゃん。お姉さん心配。
『モルちゃんと離れるのちょっと寂しいな』
まだ会って数日とはいえ、情が湧くには十分な日数だ。
故郷に帰ってしまったら、きっともう会えない。
「リホさんは、帰らないのですか?」
『え?』
「あ!すみません、覚えてないんですよね…」
モルちゃんは遠慮がちに俯いた。
私のことを気にしてくれてるんだ。
そういや、あの時 彼処にいた理由どころか自分の家さえ覚えてない設定だった…!
もうちょっと適当に言えば良かったよ。ものすごく遠い国から来たとか…
『うん…でも多分、かなり遠い所から来たんだと思う。生活様式が全然違うというか…』
「私、リホさんは身分が高い方だと思います」
『えっ!?何で!?』
「普通の民にしては上質な衣服だったので」
…確かに、バルバッドに来て色々な人を見て来たけど、女の人は布一枚のワンピースがほとんどだった。
モルちゃんもそうだったし…
中にはそんなのでいいの!?と疑いたくなる格好の人もいた。
私のいた世界の一般人とはかなり差がある。
「もし思い出したら、帰りたいと思いますか?」
『まあね。っていうか、帰らなきゃ』
だって、私はここに居るべき人間じゃない。
家族とか友達とかどうしてるかな。…心配、してるよなあ。
神隠し的な感じになってたりしたらどうしよう。捜索願いも出されてたりして…
戻ったら戻ったで「異世界にいました!」なんて言ったら絶対病院連れて行かれる。しかも檻付きの。
『…………』
…ううわ…戻りたくなくなって来た…
「リホさん?」
心配そうに顔を覗き込むモルちゃんに 何でもないよ、とだけ言って笑った。
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