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それから私達は、丘を下ってバルバッドに入った。
町だと思っていたら王国だったから驚きだ。
海に面していて、色々な船が行き来している。屋台が所狭しと並んでいて、特に魚が多い。
どうやら漁業が盛んみたいだ。
『すごい…』
「ここは代々、サルーシャ一族という王族が治めて盛り立ててきた国なのだよ。
…しかし、先王が亡くなられてからは…国が乱れているようだね」
シンさんはチラリと壁の落書きを見ながら言った。
…何あれ、字?英語…じゃないよね。言葉は通じるけど、字は読めないのか…
知れば知るほど問題だらけじゃん。
「でも、ここなら安全だよ。俺がいつも泊まっている国一番の高級ホテル!」
そう言いながら、シンさんが指したのは見るからに高級そうな建物。
うっわ、造りが重厚そうだなー。
「でも、宿代が心配だわ…私は半年間 隊商(キャラバン)で稼いだお金があるけれど多くはない…」
「僕もだよ…。リホおねえさんは?」
『わ、私も…』
っていうか一銭も持ってません!!申し訳ない…!!
私アラジンとモルちゃんに何もしてあげられてないよね!?
大人の端くれとして本当情けない!!泣きたい!!
「なーに、心配いらないよ」
『え?』
「宿代は俺が出そう。助けてもらった礼だ。お金は、先にここに来ている俺の部下が払うから…
好きなだけここに泊まっていいよ」
「「!」」
『好きなだけ!?』
シンさんの発言に耳を疑った。
さっき国一番の高級ホテルだって言ってたよね?
それを好きなだけって…商人ってそんなに儲かるの?
「ありがとぅ〜 おじさんお金持ちなんだね〜」
…まあ、タダで寝床 確保出来たしいっか。
「じゃあ、俺は失礼するよ」
『はい、ありがとうございました』
まあ、その数秒後、
変質者に間違えられて追い出されそうになるんだけどね。
部下の人が来てくれたから良かったものの、そのまま連れて行かれたらどうするつもりだったんだろう…
*
「…そうですか…私共の主人がご迷惑をおかけしました」
シンさんの部下の人はいかにも冷静そうな銀髪の人と、体力が自慢です!という感じの赤髪の人だった。
とりあえず今までの経緯を説明すると、銀髪さんは申し訳なさそうにしていた。
っていうか赤髪の人…モルちゃんとそっくりだ。
「主人の命通り、お三方の宿代はどうぞ私共にお任せくださいね」
優しく笑う銀髪さん。
やっぱり上が変だと下がしっかりするんだなあ。なんて失礼なことを思った。
『あの、本当にいいんですか?ここで一番高いホテルだって聞いたんですけど…』
「構わないさ。こちらも服を貸してもらったしね」
シンさんがアラジンの頭を撫でて言う。
や、それはそうだろうけど…
『…でもそれにしては出来すぎたお返しというか…』
まさに海老で鯛…どころかカジキマグロが釣れた状態だ。
「あはは!もしかして、後で何か見返りを求められると思ったかい?」
『え!?いやいや そんなことは…!』
ただ感謝を伝えたかっただけなのに、逆に失礼なことをしてしまっただろうか。
「…リホ、だったかな」
『はい』
名前は此処まで来る時に言っていたから、呼ばれても何の違和感もない。
返事をして見上げると、スっと顎に手を添えられた。
「まあ、今晩 君が俺の部屋に来てくれたら、それはそれで凄く嬉しいんだが」
「シン!」
何 で す と ?
しばらくそのまま固まっていると、シンさんは「冗談だ」と笑った。
や、やめてくれ そういう冗談は…!シンさんは顔がいいせいか心臓にくる!
「貴方って人は!…すみませんすみません!」
『イ、イエ…』
ペコペコと謝る銀髪さんを(ついでに私の心臓も)落ち着かせる。
『本当にありがとうございます』
「ありがとう!部下のおにいさん達!」
「さあ、あなたはそのはしたない格好をなんとかしてください」
銀髪さんはぐいぐいとシンさんをホテルの奥へ押す。
別れしな、ご飯を一緒に食べる約束をして三人は去って行った。
『さて、私達も部屋で一休みしようか!』
「うん!」
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