「里穂ちゃんってずっとその白装束なの?」

『え?ああ、そういえば…』

「それじゃ他の亡者と変わらないわねェ。アタシの御下がりで良ければあげるわ」





とある女のあの世生活 参





「このくらいでいいかしら」

『ありがとうございます お香さん!』



お香さんは色とりどりの着物を出して見せてくれた。
お香さんは武器庫の官吏で、みんなのお姉さん的存在だ。会って間も無いのに、こんなに親戚にしてくれる。



「好きな物持って帰ってね」

『いいんですか!?』

「ええ、もう着ないものばかりだし」

『やった!……あ、でも…』

「ん?」



着物や帯を品定めしていて、ふと気付く。



『私、着物 一人で着れませんでした』

「そっか、最近の現世では着ないのねェ」

『成人式とか…イベントの時だけですね』

「まァ、練習すれば慣れると思うけれど…」



白装束は紐を括るだけで着れたから問題無かったけど。
お香さんが着てる物や他の鬼が着てる物はかなり着るのが難しそうだ。
うーん、と悩んでいると、着物が並んだ下に明らかに着物とは違うものが見えた。
…あ!これだ!



『お香さんお香さん!これがいいです!』

「え?」



下の方から引っ張り出したのは甚平。
私はそれを広げてお香さんに見せた。



「ああ、それは極楽健康ランドに行った時に貰ったの」



そんな奈○健康ランドみたいな所が!?
ていうか、あの世でも健康とか気にするんだ一応…
お香さんの言う通り、甚平の胸には"極楽健康ランド"という刺繍がされていた。



『これなら着るの楽そうだし。何より動きやすそう』

「そんなに動き回るの?」

『ええ。そりゃあもう』

「…ふふ、厳しい上司をもつと大変ねェ」



鬼灯さんのスパルタにもようやく慣れてきたところだ。
補佐官補佐なんて名ばかりで、最近ただのパシリなんじゃないかと思えてきた。否、パシリだ。
この間なんて「焼きそばパン買って来いよ」って真顔で言われたからね(本人曰く、一度言ってみたかったらしい)。



「でも本当にそれでいいの?何て言うか…すごく適当っていうか…」

『はい!』

「…そう、なら着替えに着物も何着か持って帰るといいわ。…あ、そうだ」

『?』

「里穂ちゃんにもう一つ持って帰って欲しいものがあるの」



お香さんが部屋の奥から出してきたもの、それは…



『………何すかこれ』

「金魚草」



鉢植えに金魚が生えていた。
普通なら"金魚が生える"という表現はおかしいが、まさに生えていた。
厳密に言うと、鉢植えから延びた茎の先端に大きめの金魚が付いている。
言いようのない気持ち悪さに若干引いた。



『これは…上に金魚が乗ってる?…や、引っ付いてるな…やっぱり生えてる…』

「最近流行ってるらしくて、友人から貰ったんだけど…二つも要らないのよねェ」



近くの棚を見ると、確かに同じ鉢植えが飾られていた。
ていうかビチビチ動いてるんですけど。キモッ!キモすぎる!



「何でも金魚草のコンテストもあるらしいの」

『えええ…主催者の気が知れませんな』

「…それ、鬼灯様の前で言わない方がいいかもォ」

『?……まあ、お香さんが要らないなら持って帰ります』

「ありがとう。助かるわ」


2/1
戻・