「これを三日以内に覚えてください」



どん!と机に置かれた広辞苑並みの本。タイトルは"地獄のあれこれ目次録"
オイオイ、冗談言っちゃいけねーよお兄さん。





とある女のあの世生活 弍





鬼灯さんの補佐になってから一日目。
部屋も与えてもらって、給与も少し貰えることになって、
本当に至れり尽くせりなんだけど…



『これ全部!?うわ、字細かっ!』

「私の直属の部下がこれ程度覚えられなくてどうするんですか。他の獄卒に示しがつきません」

『無理無理無理!無理です!』

「無理?…どの口が言いますかどの口が!」

『いだだだだだだ!!すいまひぇんすいまひぇん!』



頬をつねり上げられてものっそい勢いで離された。

いいい痛い!この人(鬼)最大限の痛めつけ方知ってるぞ!



『私 暗記苦手なんですよ…』

「苦手ならそれを補う努力をしなさい」



お母さんみたいな正論ですな…
いやでもこれ三日以内はどう考えても無理だ。



『どっちかっつーと私 頭より身体で覚える方だし…』



ぴくり、と鬼灯さんの短い眉が動いた。
あ、ストップ。私また余計なこと言った?



「ほ〜ぅ、そうでしたか。なら早くそう言ってくださいよ」

『な、何ですか…』

「ではついて来てください。視察がてら、案内してあげましょう」

『ええ〜』

「嫌なら『行きます!
行くからその金棒直してください!』



















「鬼灯様〜!この書類のことなのですが、」

「大変です鬼灯様!また悪霊サダコが…!」

「またですか。それなら────」



すごい。
外に出るなり鬼達が集まって来た。
頼りにされてるんだ鬼灯さん…
第一補佐官って言ってたしお偉いさんなのかな。



「あれ?鬼灯様、隣にいるのは…?」

「鬼灯様が女の子といるなんて珍しいなぁ」



小さい鬼二人は首を傾げて不思議そうに私を見た。
可愛いなオイ。鬼灯さんみたいな鬼ばっかりかと思ってたけどこんなのもいるんだ。



「彼女は今日から私の補佐をしている里穂さんです」

『里穂です。よろしく』

「俺は唐瓜」

「俺は茄子!よろしく里穂〜!」



なんかフワフワしてる方が茄子で、イガグリ頭が唐瓜ね!
よし!覚えた!



「それで、鬼灯様達は今から何処へ?」

「とりあえず不喜処へ行こうかと。紹介したい方々もいるので」

『不喜処?』

「動物に亡者の骨の髄までしゃぶらせる地獄です」

『ちょっ、何つーもん見せようとしてんですか!』

「地獄の中では軽い方ですよ。もっとすごいのを見たければご案内しますが?」

『結構です』



首を振りながら全否定。
骨の髄までしゃぶらせるのが軽い方ってどんだけ他のがエゲツいんだ。
シャレにならん。



「じゃあ俺達そろそろ行きます」

「ばいばい!里穂!鬼灯様!」

『またね!』



二人と別れて、不喜処という場所へ向かう。
その間にも、亡者が鬼にムチで叩かれてたり、血の海に沈められてたり…
…慣れるには時間がかかりそうだ。
鬼灯さんは本当に頼りにされているらしく、通り過ぎがてらに鬼達に指示を求められていた。



『いつもこんなに忙しいんですか』

「今日はまだ暇な方ですよ」

『閻魔様は?』

「あのジジィ、面倒事は全部私に回しますから」



ジジィて。
仮にも上司をジジィてあんた…



「上司がチャランポランだと自ずと部下がしっかりするものです」

『なるほど』

「…着きましたよ。ここが不喜処です」



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