「里穂さんお裾分けです」

『わ、ありがとうございます』

「天罰鍋です。因みに材料は地獄蜘蛛」

『グフォッ!』





とある女のあの世生活 捌





『お、お腹が気持ち悪い…』

「せめて体調管理くらいきちんとしてください」



あんたのせいだけどな!!
朝から"天罰鍋"なる代物を食べさせられた私は相当気分がよろしくない。
材料が蜘蛛だけならまだしも後から聞けば亡者も入っていたらしい。
共食いさせられた上に、さりげなく"せめて"なんてまるで仕事が出来ないみたいな言い方までされた。
これでキレないのは神か仏。というわけでただの亡者である私はキレることにする。



『何なんですかその言い様は!私だって一生懸命やってます!』

「結果が付いてこなければ意味がありません」



しかし鬼灯さんは私の怒りなんて何とも思ってないようで、デスクの書類から目を離さず言った。
その態度に余計イライラが募っていく。
結構が全てってか!?ここは何だ!スポーツの名門校か!?



『だっ、だったら天罰鍋も食べれて結果が付いてくるような人を補佐にしたらどうですか!』

「あと女性らしくて動物好きならなお良いですね」



いませんかねぇ、そんな人。となんだか本格的に考えだした鬼灯さん。
そんな彼にさっきまでの怒りが沈んで、冷静さを取り戻していく。そして自分の発言を悔やんだ。
マジだ。マジで探そうとしてるよ この鬼。



「今度 人事部にでも問い合わせてみましょう」

『ちょちょちょ!え?マジすか?』



思わず鬼灯さんのデスクに近付いて聞いた。
困る困る困る!私 補佐官クビになったら食いっぱぐれるよ!
それどころか宿舎も使えなくなっちゃうし!



『私 動物好きですよ!意外と料理をしたり女子力もあるし…て、天罰鍋も頑張れば…いけないこともないような…?』

「…里穂さん」

『そうだ!今度お弁当作って「仕事してください」

『………はい』




















『鬼灯さん、ここは?』

「資料室です。里穂さんを連れて来たのは初めてでしたね」



仕事に必要なものを取りに行く、と言って連れて来られたのは壁一面が本棚になった部屋だった。天井と床を繋ぐようなレール式のハシゴがいくつもある。
へえ、閻魔庁にこんな部屋があったんだ。



「これからは此処から資料を持ってきでもらうこともあるので、場所を覚えてください」

『はーい』



それにしてもすごい量。ここから必要なものを見つけるのは至難の技だ。
と、思ったのも束の間。鬼灯さんはすぐにアレです、と上の方を指差した。
鬼灯さんの視力ってどうなってるんだろう。



「取ってきてください」

『えぇ!?私が!?』

「人事部『行きます行きます!行けばいいんでしょもう!』



くっそ、また新たな嫌がらせを発見させてしまった。
暫らくはこれでこき使われそうだ。鬼灯さんの恐いところはこれが本当に嫌がらせで終わるか分からないところだ。



『絶対急に動かさないでくださいよ』

「それはフリですか?」

『フリじゃねーよ!』



いや本当勘弁して。
私はゆっくりハシゴを登って行く。どんどん登ってふと下を見ると鬼灯さんが中々の小ささになっていた。
まあ高所恐怖症というわけではないのでそのまま目的の高さまで到着する。



『どれですかー?』

「その左側の赤い本です」



左の…あ、これかな?
かなりの厚さだ。一体何の資りょ、



『拷問全集 下巻…』



本の背表紙のタイトルを読む。
本当に仕事の資料なのかな…プライベートじゃないことを願おう。
ていうか上巻は読み終わったんだ…



「ありましたか?」

『あ、はーい!』



とりあえず早く持って降りよう。
ぐ、と力を込めて引き抜こうとしたが、本の厚みのせいか中々抜けない。
固っ!何これ!
両手ですればすぐ抜けそうだが生憎 利き手である右手は自分の身体を支えるので精一杯。



『ふんごォオオオ!』

「何遊んでるんですか」

『遊んでるように見えますか!?』



鬼灯この野郎!という思いを込めて力一杯 本を引っ張った。



ズボッ



『!やった!』



勢い良く棚から抜ける。
そのまま落ちそうになった本を咄嗟に両手で捕まえた。



『セーフ…』



……ん?"両手"???



「!…里穂さん!」



ぐらりと身体が傾く。
私はそのまま見上げる鬼灯さんに向かって落下した。



ドスッ ちゅっ



4/1
戻・