『於岩さん!』

「あっ…!?」



止めようと手を伸ばしたが遅かった。私の手は空を切る。
自由になった於岩さんはヒュー、と物凄いスピードで夫のいる朧車の方へ飛んで行った。



「伊右衛門様ァァァァァ 伊右衛門様ァァァァァ!お側に置いて下さいましィィィィ!!」

『駄目だ!完全に我を失ってる!ど、どうしよう!鬼灯さ、』



振り返って鬼灯さんに助けを求める。
が、私は思わず言葉を失った。
何故なら鬼灯さんが
野球選手も吃驚なほど金棒を振りかぶっていたからだ。

……え?




「伊右衛門様 アンタやっぱりイイ男だよォ!
鬼灯様の100倍イイ男だよォ!!」



ゴッ!!!!



「おごっ!」

「ぐえ!」



於岩さんが叫んでからの時間、0.03秒。
鬼灯さんの金棒はすごい勢いで私の真横の風を切り、於岩さんと伊右衛門さんに命中した。

あぶっ…危ねェェエエエ!!あと数センチで当たってたよ!



「とりあえず そいつら家庭裁判所に連れて行け」



烏天狗警察、朧車、そして私が愕然とする中。
於岩さんの「離婚はしないわよォォォ」という声だけが響いていた。

めでたしめでたし。









と、いうわけで今回の出張は無事終了。

あの二人が後々どうなったかというと、伊右衛門さんは指名手配犯なのでそのまま御用に。
於岩さんはタクシーの提灯から伊右衛門さんの牢の提灯に転職したそうです。
幸せそうで何よりですね。
…それにしても、於岩さんのあの執念は一体どこからくるのやら。
一度殺された相手なのにまだ想っているなんて…本当にすごいです。
私は現世にいた頃、あまり恋愛をしてこなかったのでよく分かりません。
初恋は確かスミレ組のユウタくんだった気がします。
…あ、私の話はどうでもいいか。

兎にも角にも、今回私が学んだのは"愛は人を幸福にも不幸にもする"ということです。
いやはや勉強になりました。私はこれからもこの事を肝に命じ、職務を全うしたいと思います。まる。












「…………里穂さん、これは何ですか?」

『レポートです。鬼灯さんが出せって言ったんじゃないですか〜』

「それは知ってます。私が言っているのは中身の問題です」



ぺしぺしと手の甲でレポート用紙を叩く鬼灯さん。



『中身?今回の出張で学んだことですよね?ちゃんと書ぶげふっ!!』

「真面目にやれ」



レポートを顔面に叩きつけられ、よろける。
結構な枚数書いちゃったから地味に痛い…



『何するんですかー!人が折角…!』

「貴女の恋愛観など どうでもいいので仕事をしてください』

『ど、どうでもいい!?
……お言葉ですけど、鬼灯さんも学んだ方がいいですよ 愛という名の優しさを!』

「優しさ?」

『ひいっ』


切れ長の目が更に細くなった。
ガシッと両肩を掴まれて身動きが取れない。



『ななな何、』

「私は十分優しくしているつもりですよ。部下を厳しく躾けるのが上司の優しさというもの」

『いっ、いだだだだだ!!肩!肩がもげる!』

「ですが、それがきちんと伝わっていなかったようなのでこれからはもっと優しくしてさしあげますね。
私なりの方法で」

『…………』



うん、





優しさってなんだろ

(朧車の修理代 払ってくださいね)(公費は…!?)

4/4
・進