「いいじゃないのさ…この於岩さんとドライブしようよ お二人さん」

「しまいにゃ訴えるぞ 有限会社朧車」

「どうしたよ於岩。もしかして夫にまだ未練があるのか?」

「バカだね。ないよ」



於岩さんは目をそらしてもう一度「…ないよ」と呟いた。
やっぱり殺されてもまだ好きなんだ。惚れた者負けとはまさにこの事かな。
そりゃそんな簡単に忘れられないよ。
私も死ぬ前にそのくらい好きな人作っとくんだった。



『それで、今その旦那さんは何処に、』



キッ!



「!」

「『おわっ!』」



於岩さんと私が声を上げたのはほぼ同時。
いきなりの急ブレーキに身体が前のめりになる。
あっぶねー!団子の串が喉に突き刺さるとこだったよ!



「どうしたのさ急に…危ないね!」

『危なかった!マジ危なかった!良かった串刺さらなくて!』

「何かあったんですかね」


鬼灯さんが御簾をめくって外を見る。
私もその後ろから覗いた。



「? どうしました?」

「…あの…あれ」



前を見ると、似たような朧車さんがもい一台見えた。
あれ、でもなんかフラフラ…?



「…俺の友人なんですけど…なんか飛び方がおかしいような…」

『フラフラしてますね』

「友人って…タクシー乗り場にいた?」

「そうです。さっきお話しした怪談体験をした同僚です」

「イヤ 怪談は貴方がたなんですけどね」



まったくだ。と思いながら不意に後ろの方をみると、カアカアと無く鳥が見えた。
カラス?
…いや、違う。それにしてはデカい。っていうかアレ?なんかコッチに来る…?



『鬼灯さん、あれ何ですか?』



鬼灯さんは私の指差す方を見て、目を細めた。



「あれは…」



鳥はどんどんこっちに近付いて来て、ようやく全体がハッキリと見えるようになった。
ていうか顔怖っ!何!?天狗!?



「烏天狗警察じゃないですか。どうなされました?」



烏天狗警察。
一番初めに鬼灯さんに貰った本に載ってたな。
獄卒が亡者を取り締まるなら、烏天狗警察はその獄卒を取り締まるのが役目なんだっけ。
初めて見たけどこんなのなんだ。
いっぱいいると中々の迫力だ…



「これは鬼灯様…先程 指名手配の亡者を見たと通報がありまして…
どうもあのタクシーの中ではないかと…」

「ええっ!?アイツ大丈夫ですかっ!?」

『本当に襲う人がいたなんて…!』

「指名手配?」

「はい。民谷伊右衛門とかいう男なのですが…」

「いっ…伊右衛門様!!?」



指名手配のチラシを見て、於岩さんが血相を変えて叫んだ。



『誰!?』

「民谷伊右衛門…於岩さんの夫です」

『えっ!?マジで!?』

「こうしちゃおれないよ!朧の旦那ァ 追跡してくんなァ!!」

「イヤ あの堂々と勝手なマネされると困ります」

『そうですよ於岩さん!こういうのは警察に任せた方が「オイッ」



烏天狗さんと私で於岩さんを宥めていると、フラフラした朧車から男の声が。
なんか怒ってらっしゃる…!



「ゴチャゴチャうるせェぞ警察!!俺はネコバスに乗るのが夢だったんだ!!」

『マジで言ってんのか あの人!』

「アイツ意外とアホだぞ!?」

「残念なイケメンだ!」



マジでネコバスみたいな立ち位置なのか 朧車って!
どうなってんの 地獄での認識は!



「聞きしに勝るバカ男ですねぇ。あのままタクシーの金も奪って逃げる気ですよ」

「………」

「於岩さん?」


於岩さんの様子が少しおかしい。
…あれ、そういえばさっきまで於岩さんがぶら下がってた紐が取れてる。
於岩さんは、フワフワと浮いて鬼灯さんが持ち上げた御簾の方へ。

え、ちょ、



4/3