『はー、疲れた。今回の出張、私 着いて行かなくても良かったんじゃ?』

「何のための補佐ですか?今回の出張で学んだことを5000字以上のレポートで提出してください」

『またそんなムチャぶり…ってうお!?何ですかコレ!』

「タクシーです」





とある女のあの世生活 陸





鬼灯さんとの出張の帰り。
行きと同じバスで閻魔殿まで帰ろうとしたが、時間的にタクシーに乗ろうということに。
鬼灯さんに連れられタクシー乗り場に行くと、怖すぎる物体がそこに。



『タクシー!?これが!?顔付いてますよ!』

「………あ、お客様」

「あっ、鬼灯様だ」

『喋った…!!』



地獄に来てからというもの、地獄(ここ)の生き物には驚かされてばかりだ。
シロちゃん達みたいに可愛ければまだ大丈夫だけど、中には目の前にある(いる?)タクシーみたいに完全にホラーなものもある。



「おや、お客様 朧車は初めて?」

『はい』

「そういや、最近 鬼灯様が補佐を雇った聞いたな。あんたのことか」

「ミジンコ程しか役に立ちませんがそうです」

『ちょ、ミジンコって!』



微生物じゃねーか!
せめてもうちょっと良い例えしてくれ!



「こんな一介のタクシー利用でいいんですか?もっといいお車(龍とか)お使いになれば…」

「公費の無駄ですから」

『公費で団子買っておいてよく言えますね』



私は金棒にぶら下がった金魚草巾着に入った団子を見て言う。
出張先で美味しいと評判の甘味処、"とらや"の団子。
タクシーに乗りながら食べれるかな。



「これは公費ではありませんよ。里穂さんの給与から引く予定です」

『何それ 初耳…!!』


え?じゃあ結果的に私が奢ったことになってんの?
鬼灯さんの方が高給のくせに!部下にたかるなんて鬼だ!いや鬼だけど!



「現世では安全も兼ねての専用もあるようですが、地獄では己の身は己で守るのが鉄則です」

「…ああ…まぁ、襲撃したところで普通に敵わねーけどな…」

『確かに…』



金棒を前に出して言う鬼灯さんに私も朧車さんも顔を青くした。



「俺ら さっきも話してたんだよ。ほら、現世ではタクシーが襲われたりするんだろ?」

『ああ…いや、襲う方も選ぶと思いますよ』

「でもさ、俺ら乗り物界のアイドルじゃん?」

「『はい?』」



聞き捨てならない発言に鬼灯さんと声を揃えた。
アイドル?朧車が?



「うんうん」

「そういう点では今後強盗とかに注意するに越したことは…」

『ストップストップ!』



勝手に話しを進める二台に待ったをかける。
会話が止まったところで、鬼灯さんが首を傾げた。



「アイドル?」

「え、だって俺らよく考えたら
ネコバスの仲間だし…」

「高級車ではないけど憧れの乗り物だよ」

「そうだなー」



間。



『いやいやいやいや!どんだけよく考えてもネコバスとは重なりませんよ!』

「サツキが貴方達に乗って迎えに来たらメイは号泣するでしょうね。別の意味で」



いくらなんでもジ◯リと一緒にしちゃ駄目だろ。苦情くるよ。
大体 ネコバスって妖精的なアレじゃないの?
朧車って確か妖怪だよね?妖怪と妖精って一文字違いで大違いだ。



「構造は確かにそうですが…種類としてはどちらかと言うと一反木綿が近いのでは…」

「えー、あいつ屋根ねーもん」



そういう問題?



「ハイ、で どこまで参りましょうか?あの山の病院?」

「いえ、別にとれたてのトウモロコシは届けません」



鬼灯さんが首を振りながら答えた。
山の病院ってあのお母さんがいる病院?もしも行ったとしたら何をすればいいんだよ。
トウモロコシの代わりに団子しか届けられないよ。



「閻魔殿までお願いします」

「あ、もしかして出張からのお帰りですか」

『はい』



私はもう一台の朧車さんにお別れを言って、中へ入った。
おー、畳だ。部屋みたいになってるのか。



「任せください。最速で飛びますよ!…あ、中はつつかないでください。痛いんで」

『え!ここって体内なんですか!?
…ってうわっ!浮いた!』



いきなりの浮遊感に御簾を掴んだ。
浮く感じの乗り物なのコレ!てっきり走るのかと思った!



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