三 * 『わあ…!』 門番(牛頭さんと馬頭さんというらしい)にはビビったけど、この景色を見るとどうでも良くなる。 閻魔様にもらった地図を頼りに、小高い丘を登って景色を見下ろす。 小鳥のさえずり、色とりどりの花。中国との境にあるだけあって、建物は中華風だ。 池の水が澄んでる!血の池じゃないし亡者の叫び声も聞こえない! 山も針山じゃなくて森林だ! 門で隔てただけの世界とは思えない格差。 ほんとなら私はここに来るはずだったのに。ボランティアしときゃ良かった… っと、見惚れてる場合じゃない。 地図によるとこの坂を登った先が漢方薬局だ。 『……あ!あれかな』 坂を登りきると、桃の木に囲まれた一軒家を発見。 桃の木だけじゃなく畑や、あちこちでウサギが草を食べていた。 可愛い…! 「あれ、お客さん?」 桃の木の影から声がして、その主がひょっこり顔を出す。 あ、もしかしてこの人が白澤さ… 『……………』 「いらっしゃい。初めて見る人だなあ」 少しポッチャリで、手ぬぐいを頭に巻いた少年?青年?それともおっさん? 歳がよく分からない。 多分 平安時代にいたらモテただろうな…という人だ。 お香さん達は美青年って言ってたけど… …………うん、好みって人それぞれだよね。 『えーっと…白澤、さん?』 「え?ああ違う違う!白澤様は俺の師匠で、俺は桃太郎」 なんだ、違うのか。よかった… よく分からない安心感(失礼)を覚えて胸を撫で下ろす。 っていうか…ん?桃太郎? 『桃太郎ってあの鬼退治の?!』 「あれ?俺のこと知ってる?もしかしてファン?」 『全然?』 「そんなハッキリ言わなくても」 『どちらかというと一寸法師派です』 「ええええ」 シロちゃん達が桃太郎は桃源郷で働いてるって言ってたっけ。 それにしても子供の頃から聞いてた英雄が目の前にいるなんて。 別にファンじゃないけどサインくらい貰っとこうかな。 「白澤様なら中だけど…入る?」 『あ、お邪魔します』 桃太郎がドアを開けた瞬間、 『グエブフォッ!!!』 「…あ、」 物凄い打撃が私の顔面を襲った。 衝撃に耐えられなくてそのまま倒れる。 い、痛い…背中も顔面も… 「最低…!もう知らない!!」 知らない女の子の声と走り去る足音。 事態が読めなくて、ぶつけた額を押さえる。 『いったー…』 「だ、大丈夫?!」 「あ、女の子だ ラッキー」 『……は?』 胸の辺りからした声に視線を下げる。 『うわあああああ!!!』 「げふっ!」 誰誰誰誰…!!?! 鼻血を垂らした男を思いっきりぶん殴って上から退かす。 顔を埋めるほどの胸は無いけどそれなりの羞恥心はあるのです。 「あいたた…」 『だ、誰!?』 「この人が白澤様ですよ」 え。 * 「いやあ、さっきはゴメンね」 『こちらこそ…』 中に入ると、色々な薬草がたくさんあって外と同じウサギがいっぱい居た。 消毒だと塗り薬を桃太郎が額に塗ってくれた。 「僕は白澤。君は?」 『里穂です』 「里穂ちゃんかあ、可愛い名前だね」 ピッタリと横に引っ付かれて肩を抱かれた。 ち、近い… 『あはは…』 肩にある手をさり気なく退かす。 この人が泣かせた女は数知れずの白澤さんか… たしかに美青年だ。切れ長の目がどことなく鬼灯さんに似ている。 「で?里穂ちゃんは僕に何の用?」 「薬局に用があるなら目的は一つでしょ」 「やだなぁ桃タロー君。水差さないでくれよ」 『薬を買いに来ました』 「?…見たところどこも悪くなさそうだけど?」 『あ、病人は私じゃなくて閻魔様で…私はおつかいです』 閻魔様の名前を出すと、二人は顔を見合わせた。 私何か駄目なこと言った? |