『わあ…!』



門番(牛頭さんと馬頭さんというらしい)にはビビったけど、この景色を見るとどうでも良くなる。
閻魔様にもらった地図を頼りに、小高い丘を登って景色を見下ろす。

小鳥のさえずり、色とりどりの花。中国との境にあるだけあって、建物は中華風だ。
池の水が澄んでる!血の池じゃないし亡者の叫び声も聞こえない!
山も針山じゃなくて森林だ!
門で隔てただけの世界とは思えない格差。
ほんとなら私はここに来るはずだったのに。ボランティアしときゃ良かった…
っと、見惚れてる場合じゃない。
地図によるとこの坂を登った先が漢方薬局だ。



『……あ!あれかな』



坂を登りきると、桃の木に囲まれた一軒家を発見。
桃の木だけじゃなく畑や、あちこちでウサギが草を食べていた。

可愛い…!



「あれ、お客さん?」



桃の木の影から声がして、その主がひょっこり顔を出す。

あ、もしかしてこの人が白澤さ…



『……………』

「いらっしゃい。初めて見る人だなあ」



少しポッチャリで、手ぬぐいを頭に巻いた少年?青年?それともおっさん?
歳がよく分からない。
多分 平安時代にいたらモテただろうな…という人だ。
お香さん達は美青年って言ってたけど…
…………うん、好みって人それぞれだよね。



『えーっと…白澤、さん?』

「え?ああ違う違う!白澤様は俺の師匠で、俺は桃太郎」



なんだ、違うのか。よかった…
よく分からない安心感(失礼)を覚えて胸を撫で下ろす。
っていうか…ん?桃太郎?



『桃太郎ってあの鬼退治の?!』

「あれ?俺のこと知ってる?もしかしてファン?」

『全然?』

「そんなハッキリ言わなくても」

『どちらかというと一寸法師派です』

「ええええ」



シロちゃん達が桃太郎は桃源郷で働いてるって言ってたっけ。
それにしても子供の頃から聞いてた英雄が目の前にいるなんて。
別にファンじゃないけどサインくらい貰っとこうかな。



「白澤様なら中だけど…入る?」

『あ、お邪魔します』



桃太郎がドアを開けた瞬間、



『グエブフォッ!!!』

「…あ、」



物凄い打撃が私の顔面を襲った。
衝撃に耐えられなくてそのまま倒れる。

い、痛い…背中も顔面も…



「最低…!もう知らない!!」



知らない女の子の声と走り去る足音。
事態が読めなくて、ぶつけた額を押さえる。



『いったー…』

「だ、大丈夫?!」

「あ、女の子だ ラッキー」

『……は?』



胸の辺りからした声に視線を下げる。



『うわあああああ!!!』

「げふっ!」



誰誰誰誰…!!?!

鼻血を垂らした男を思いっきりぶん殴って上から退かす。
顔を埋めるほどの胸は無いけどそれなりの羞恥心はあるのです。



「あいたた…」

『だ、誰!?』

「この人が白澤様ですよ」



え。




















「いやあ、さっきはゴメンね」

『こちらこそ…』



中に入ると、色々な薬草がたくさんあって外と同じウサギがいっぱい居た。
消毒だと塗り薬を桃太郎が額に塗ってくれた。



「僕は白澤。君は?」

『里穂です』

「里穂ちゃんかあ、可愛い名前だね」



ピッタリと横に引っ付かれて肩を抱かれた。
ち、近い…



『あはは…』



肩にある手をさり気なく退かす。
この人が泣かせた女は数知れずの白澤さんか…
たしかに美青年だ。切れ長の目がどことなく鬼灯さんに似ている。



「で?里穂ちゃんは僕に何の用?」

「薬局に用があるなら目的は一つでしょ」

「やだなぁ桃タロー君。水差さないでくれよ」

『薬を買いに来ました』

「?…見たところどこも悪くなさそうだけど?」

『あ、病人は私じゃなくて閻魔様で…私はおつかいです』



閻魔様の名前を出すと、二人は顔を見合わせた。
私何か駄目なこと言った?


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