二 ふと我に返ると、お香さん達が顔を青くして私の背後を見ていた。 …嫌な予感を感じながらも、ゆっくりと振り返る。 「楽しそうですね 里穂さん」 『アハハハ…』 ゴゴゴゴ…という火山噴火寸前の音を背負って腕を組んだ鬼灯さんが私を見下ろしていた。 み、見なきゃ良かった…! 『違っ、違うんです!えっと、今のアレは言葉のアヤでっ!……ね!みんな… っていねぇし!』 向き直ると既にみんなの姿は無かった。 裏切り者ォォオオ!! 「ところで里穂さん、昼休みはとっくに終わっていますが?」 『うっ!』 「仕事をサボった上 堂々と人の悪口ですか。いい度胸です」 『わ、悪口じゃなくて愚痴…』 「問答無用!」 『ギャァアアアア!!!!』 * 『あー、えらい目にあった…』 「うわ、なんかボロボロだね里穂ちゃん」 『閻魔様…』 仕事場に戻る途中、玉座に座る閻魔様に話しかけられた。 「鬼灯君にやられたの?」 『はい…』 「あはは、容赦ないなあ…はっくしょい!!」 ずびび、と鼻を吸う音。 見ると、マスクをした閻魔様。 ビックリした…すごいくしゃみ… 『風邪ですか?』 「そうみたい。…鬼灯君は?」 『私をシゴいた後 視察に出掛けました』 「うーん、薬を買いに行ってもらいたかったんだけど…」 『なら私が行きますよ!』 鬼灯さんは視察に行ったら中々帰ってこない。 私が頼まれた仕事は書類整理だけだし、薬を買いに行くくらいすぐだから大丈夫だ。 『薬屋さんってどこにあるんですか?』 「ずびび…漢方薬局は桃源郷にあるけど…」 桃源郷…もしかして、白澤っていう人がいる所? 『桃源郷ってどんな所なんですか?』 「天国側の日本と中国のちょうど境にあって、景色がすごく綺麗なんだ。あの世絶景百選に選ばれたくらい」 『へぇ!行ってみたい!』 そこまで言われたら行くしかないだろう桃源郷。 何で今まで教えてくれなかったんだ。 「里穂ちゃん一人で行かせるのワシ超心配」 『そんな子供じゃないんだから。地図を貰えれば大丈夫ですよ』 「そういう意味じゃないんだけどなぁ。むしろ子供じゃないから心配というか…」 『…?』 「まぁ、遅かれ早かれ会うことになるだろうしいいか。ゲホッコホッ」 閻魔様のくしゃみは何時の間にか本格的な咳に変わっていた。 これは早く薬をもらって来ないと! 閻魔様が侵される菌なんてばら撒かれたら地獄中が風邪をひいてしまう。 私は未だ不安気な閻魔様から地図を受け取って、桃源郷へ向かった。 「…鬼灯君に怒られたらどうしよう」 |