1
綺麗な花には棘があるってね。
私と彼と非日常 15
「リホちゃん、ちょっといいかしら」
『はい?』
お局先輩に呼ばれてスタッフルームに入ると、見慣れない女の子が一人。 他の従業員は黒いメイド服なのに対し、彼女のメイド服は薄いピンクだった。 胸には"まろん"という名札が付いている。
「この子はまろんちゃん。三日前に働くことになった新入りよ」
『リホです』
「まろんです!」
か、可愛い… まさにゆるふわ系美少女って感じだ。
「まろんちゃんはリホちゃんよりは年上だと思うけどまだ研修中なの。それでここでのイロハを教えてあげてほしいのよ」
『へ?いや、それはベテランの先輩の方が良くないですか?』
「リホちゃんもこの店で働き始めて結構経つでしょ?これも経験よ経験!」
ね?と笑顔で言う先輩。 まあなんて素敵な笑顔…が、しかしBUT。 私は騙されないぞ。
『それってただ単に先輩が面倒なだけなんじゃ?』
「な、何言ってるの!言ったでしょ?新人の教育も大事な経験よ!年も一番近いしね!」
どもった!ビンゴだ!
『えええ!ずるいですよ そんなの!職権乱用!』
「何か文句でも?」
『………ありません』
「ふふ、なら良かった!じゃあよろしくね、リホちゃん」
「よろしくお願いしまぁす リホ先輩」
鼻にかかる甘ったるい声。 うっわー、こういうタイプか… 後輩なのに年上ってやり難いなぁ。
『…よ、よろしくお願いします』
♂♀
『ってなわけで、まずは食器洗いからやって行きましょう』
「えっ?接客はしないんですかぁ?」
『私の常連さんがいるならするけど今はいないし、手が空いてるなら何かと用事見つけてやらなきゃ駄目です』
「ふぅ〜ん」
ふぅ〜んって…!ふぅ〜んってアンタ…! 常識なんじゃないのか…
「でも私今 水仕事できないんですけどぉ」
『は?何で?』
「ネイル剥げちゃう」
パッと見せられたのは綺麗な花模様の指先。
……うん、 お前何しに来たの?
『あの…普通 飲食店で働く時は手は何も無しで来るもんじゃあ…』
「え〜?こんな可愛いのに?」
店長ォォオオオ!!!何でこんな子雇ったんだ!!明らかに人選ミスだよ!
『…とりあえず明日には取って来てくださいよ。仕事にならん』
「え〜!これ両手で4万もしたんですよぉ?」
『よ、4万…!?アホか!』
「リホ先輩はしないのー?」
『しませんよ!爪にそんな金かけてられるか!』
「オバサンくさぁい」
お前の方が年上だろうが!もうマジで何なのこの人…! 先輩も私に面倒なのを押し付けて… 桃◯で貧乏神をなすり付けられた時みたいな気分だ。
『リホせんぱぁい、食洗機ないんですかぁ?』
………ダメだこりゃ。
♂♀
『オルァァアアアッ!』
「うるせえな」
近所迷惑だろ。とシズさんに注意されるも、私の気は収まらず。 イライラをこれでもかとハンバーグのミンチにぶつけていた。
「落ち着け」
『これが落ち着いていられますか!』
びったん!とミンチがまな板にあたる音が激しくなる。
「何があったんだよ」
『……バイトで後輩が出来たんです』
「後輩?」
後輩…後輩か…とシズさんは少し羨ましそうに呟いた。 シズさんの仕事場ではシズさんが一番年下なんだろうか。若い人結構いそうなのになぁ。 …まあ、いない方が良い後輩もいるけどね。うちみたいに。
『全然仕事しないんですよ。接客さえやってればいいと思ってて』
「そういうのを正すのが先輩だろ?」
『どうやって?』
「話し合いだな」
さすが腐っても平和主義。 でも実際そういう状況になればどうなるかは簡単に想像がついた。
『それでも聞かなかったら?』
「殴って身体に覚えさせる」
『……なるほど』
死ぬわ。
[ 1/5 ] [*prev] [next#]
[しおりを挟む]
|