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臨也さんに抱かれたままになっていると、ふわりと風が頬を撫でた。
どうやら外に出たらしい。目隠しを上へあげてみる。



『…っ』



久しぶりに見る光に眩しさを感じながら何回か瞬きをする。
次第に視界がクリアになっていった。
月明かりを背景にした、思いの外近い臨也さんの顔がうつる。

睫毛長っ!肌白っ!この人、本当に綺麗な顔だな。
スタイル良いし。細いのにどこに私を抱き上げる力が…



「あはは、そんな見つめないでよ。ま、分からないこともないけどね」



そういうのを全部自覚してるところがたまにキズだ。
マジで黙ってればいいのに。



「…あ、ほら お迎えだよ」

『…?』



静かに地面に降ろされて臨也さんの指された方を見る。
そこには黒いバイクと、黄色のヘルメットの人物が立っていた。



『セルティさん?…臨也さんが呼んでくれたんですか?』

「仕事の依頼だよ。重たい荷物を元の場所に戻してくれってね」

『誰が重たい荷物だ!』



冗談冗談、と笑う臨也さん多分本気だ。
そんなに重かった?結構傷付くんですけど。



『……臨也さん』

「ん?」

『さっきの人、死んでませんよね?』

「どうして?」

『どうしてって…』

「君が気にかけることじゃない。それに、殺してたとしたらアイツは望みを叶えたんだ。元々自殺志願者だったんだからね」

『そりゃそうなんだけど…』



いつも臨也さんは理にかなっている。だけど、何か違う気がしてならない。
というか、殺すとかいう言葉が出てきてる時点でおかしいんだよ。



「それにナイフを使うなんて俺とキャラが被るしね」

『否めませんな』



臨也さんの言葉に頷いた時、肩を叩かれて振り向く。
瞬間、再び視界が真っ暗になった。



『セルティさ、ブフ…っ!』



手を背中に回され、ぎゅぅうう、と抱き締められた。
つーか当たってる!胸が顔に当たってますからァァァ!



『く、苦しい…』



やっとのことで声を出すと拘束が離れた。



《大丈夫か!?怪我はないか!?気分が悪いとか…》

『あはは、大丈夫ですよ』

《手首が赤いじゃないか!首にも傷がある!》



そう言われて(実際には言ってないが)首を触ってみるとヒリヒリとした痛みを感じた。
こんなところ怪我してたんだ。
気付かなかった。



《新羅に診てもらった方がよくないか?》

『いや大丈夫ですって!心配しすぎですよ』

《そうか?ならいいんだが…静雄に何て言えばいいんだ…》



そうだ!シズさん…!連絡するって言ってたのに…
うわー、絶対怒られる…

ガックリと肩を落とすと、セルティさんが慌てたようにPDAを打つ。



《大丈夫。静雄には私が連絡した。着いて来ると言っていたが、家にいてもらって良かった》

『…?』

《臨也が一緒だったんだろう?》

『あ、そうだ。臨也さ……あれ?』



振り向くとすでに彼の姿は無かった。

まだお礼言ってないのに…
大体何で私のいた場所知ってたんだろ。
ま、聞いたところで''情報屋だから''で済まされるんだろうけど。



《そろそろ帰ろう。ここは黄巾賊の集会所にもなってるんだ》

『げっ!マジすか!』



お揃いの黒いヘルメットを被り、私はセルティさんのバイクにまたがった。


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