4


死を覚悟した、その時だった。



パチパチパチ



「だ、誰だ!?」



突然聞こえてきた一人の拍手。
首に突き付けられてた物が離れた。



「とんだ喜劇だねぇ。でもまぁ…期待以上だ」



この無駄にいい声は、聞き覚えがある。



『臨也さん…?!』



何で臨也さんがこんな所に?!



「里穂ちゃん久しぶり。元気?」

『どこをどう見て元気そうに見えるんすか』

「君が呼んだのか?」



ストーカーが私に問う。
声からしてすごく焦ってるようだった。



『呼んでな……あ』



頭を殴られた直後、咄嗟に押したリダイアルボタンを思い出す。
そうだ!あの時最後にかけたの臨也さんだった!
でも何で場所まで…



「死にたいなら俺は退散するけど?」

『いや退散するならあたしも連れてってください!』

「く、来るな!彼女と僕は一緒に死ぬんだ!誰にも邪魔させない!」



臨也さんが歩いてくる足音が聞こえた。くそ!目隠しされてるから状況が全然分からない!



「一緒に死ぬ?面白いこと言うねぇ。君は一緒に死ねば死後の世界でも一緒にいれると思ってるの?」

「そ、それは…」

「人間は同じ場所、同じ時間、同じ状況で死んだとしても、結局死ぬ時は一人だ」

「…!」

「里穂ちゃんを殺した後君も自殺するつもりだったんだろうけど、本当に死ねたのかな?
君はただ彼女を殺したことに恐怖し、死までも躊躇しはじめるんじゃない?」



そこまで見ても良かったんだけどね、と恐ろしいことを言う臨也さん。
頼むからそういうことは私のいない所で言ってくれ!



「でも今彼女に死なれるのは惜しいんだよねぇ」

「違う…僕は…違うんだ!」

『うわっ!』



ガシッ!といきなり肩を掴まれて身体が跳ねた。
シズさんとまでは言わないがとても強い力だった。



「信じてくれ!僕には君しかいないんだ!君だけが僕の…!」



服越しに伝わる男の体温が熱い。
焦っているのも十分すぎるほど伝わる。
この人が''ネット上の私''をどれだけ必要としていたことも――



「君だってそうだろ!?僕だけが頼りだって…」

「いい加減にしてくれないかなぁ…」



ため息混じりに言う臨也さんはやれやれとでも言いたげだ。



「この数日間 彼女を見てきて本当に君だけを頼りにしてるとでも?」

「だって、彼女が言ったんだ!僕だけが味方だって…僕はそれを信じて…」

「言い訳も甚だしいね。君はただ一人になりたくなかっただけだろう?自分が寂しかったから彼女を利用した」

「ち、違、」

「そういう自己中心的な考えは嫌いじゃない。
だけど───この子を利用するのは俺だけで十分だ」

「う、うわぁぁあああ!!」

『…!?』



だ、誰かァァァ!誰か状況を説明してくださいィィ!!

すごい叫び声と共に何かが倒れる音。
正直言ってそこら辺のお化け屋敷より数倍怖い。
大丈夫!?マジで死んでない!?



『い、臨也さん…?』

「君も君でよくそんな格好してられるね」

『え?』

「何だっけ、拘束プレイ?マニア受けはするだろうね」

『黙れ。いいからほどいてくださいよ!』



そう言えばメイド服のままだった。
恥ずかしすぎる。何だコレ。

とりあえず手足の拘束をほどいてもらって立ち上がった。
目隠しに手をつける。



「あ、それは付けたままでいいと思うけど」

『え、嫌ですよ。視界暗いままなんて』

「へぇ、まぁ君のストーカーが今どんな状態か見たいなら無理にとは言わないけど」

『嘘ですごめんなさい』



見ない方が身のためだと思って上に上げかけた目隠しを直す。

こ、怖い!



『でもこのままじゃまともに歩けな…うおぁ!』



突然襲う何とも言えない浮遊感。
臨也さんの手の位置は見えてなくてもわかる。



「もっと可愛い声出ないの?」

『ちょ、何ですかこれ!何でお姫様抱っこ!?』

「じゃあ担げって?俺を何処かの怪物と一緒にしないでくれない?」



そうじゃなくてェェェ!普通に恥ずかしいから言ってんの!
口が裂けても言わねぇけどな!



「俺にこんなことされてるんだから、君はもっと喜ぶべきだよ」

『そんな自信満々に言われても』

「…あと、里穂ちゃんって見た目より重いね」

『沈められたいか』



[ 4/7 ]

[*prev] [next#]



[しおりを挟む]