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「大丈夫。死ぬ時は誰だって怖くて逃避したくなるんだ」
私はたった今あなたから逃避したいんですが。 つーかマジで死ぬの!?死ぬならテメェ一人で死ねよ! 私をそんなことに巻き込まないでください…!
「君が僕の味方だって言ってくれた時、凄く嬉しかったよ」
『………』
「僕も一人だったんだ。君みたいに」
『私は一人なんかじゃ…』
「知ってるさ。平和島静雄だろ」
男の声が、少し低くなった気がした。
「あんな化け物に、君の気持ちが分かるわけがない」
今もし手足が自由なら、こんな奴すぐに私のローリングソバットの餌食にしてやるのに。 いやむしろコブラツイストもつけてやる。
「君の味方は僕だけでいいんだ」
ゾクリ、と寒気がした。
安っぽい昼ドラの台詞みたいな言葉でも、こんな状況で聞くとかなりのものだ。
「一緒に逝こう。両親に会いたいってあれだけ言ってたじゃないか」
『…え…?』
両親…? 何でこの人が私の親のことを… いや、''ネット上の私''と言うべきか。 だけど、そんなことゆっくり考えている場合ではなくて、
私は試しに手足を動かしてみる。 だけど余計きつくなるだけで、いっこうにほどける気配がない。
「親なんて結局自分勝手なんだ」
『そんなことは、』
「無いって言えるのか?現に君が一番の被害者じゃないか」
コツコツと近付いてくる足音。 私は思わず身構える。
「それとも──人殺しだと責められたのは親のせいじゃないとでも?」
どくん、
自分でも、心臓が大きく脈打ったのがわかった。 頭の中が真っ白になる。
『ちが…あれは、私の、』
私の……何? 小さな反抗の声は男の足音で消えた。
「死ねば楽になる。全て無くなるんだ。その罪悪感も、全て」
だから一緒に死のう。 ひやりと首筋に冷たいものが触れた。
『…………』
ああ、もう無理だ。逃げることなんて出来っこない。 だって、こいつの言っていることに何一つ言い返すことが出来ないんだから。
「大丈夫だ。君を殺したら僕もすぐ逝く」
18年か…短い人生だったなぁ。 最後の晩餐は絶対 露西亜寿司ってサイモンさんと約束してたのに。 ……あ!シズさんにプリン賞費期限切れって言うの忘れてた! あの人プリンは無差別に食べるから教えてあげなきゃなんないのに! このままじゃ明日シズさんがトイレにこもることに…って、 何死ぬ前にシズさんの腹の調子心配してんだ 私。 “思い出が走馬灯のように――”とかよくあるけど嘘だなアレ。
「さぁ、逝こうか」
男の声に、ギュッと目を瞑る。
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