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――――――…
新宿、某所。 高級マンションの一室に聞き慣れた着信音が響く。 しかし携帯の主、折原臨也はソファーに座り、ただそれを見つめるだけだ。
「ちょっと、鳴ってるわよ」
早く出なさいよ、と秘書である波江が急かしたところで、この男が聞くはずない。
「わかってないなぁ。波江、こういうのは焦らした方がいいんだよ」
「貴方のくだらない論理なんて興味ないわ。その着信音が耳障りなのよ」
「相変わらず手厳しいねぇ」
そんなことを言っているうちに着信音が止まった。 それにも関わらず臨也は携帯電話を眺めたまま動かない。 波江はそんな臨也をたいして気にせず、作業を再開した。
十数分後、また着信音がなり始める。 今度はすぐに携帯に出た臨也。しかし、挨拶もせず黙ったままである。 そして数秒で通話を切り、お馴染みの上着を羽織る。
「ちょっと出かけてくるよ」
「…次は何を企んでいるの?」
「はは、企んでるなんて人聞きの悪い。“お姫様”を助けに行くだけさ」
「………不幸なお姫様がいたものね」
波江の呟きは臨也には届いていなかった。
♂♀
『……ん…』
目を開けると視界は真っ暗だった。二、三回瞬きしても全く変わらない。
目隠しされてるのか。 つーか手も足も動かないんですけど。もしかして超拘束されてる?
『……ヤバくね?』
待て待て待て、落ち着け私。 よく考えよう。何でこんなことになってんの? ――確か先輩にゴミ出し当番頼まれて、ゴミ出しに行ってて、 そんで戻ろうとしたら誰かに頭殴られて…
この状況。
『…ヤバい』
ヤバイヤバイヤバイヤバイィィィイ!!! ちょ、これマジでヤバイよ!どのくらいヤバイかっていうと…とりあえず物凄くヤバイ!!
「目が覚めた?」
『…!』
聞いたことのない男の声。 何より、人がいたことに驚いた。 恥ずかしっ!独り言言っちゃったよ! って、そんなこと気にしてる場合じゃない。
『…誰?』
自分の声がいやに大きく響く。 結構広い部屋にいるみたいだ。
「僕だよ。忘れた?」
僕って誰だ 殴るぞストーカー野郎。 そう叫んでやりたかったが、手足を拘束されてる上、目まで見えないんじゃどうしようもない。
「君がわからないのも無理はないか。ほとんどネットでの会話だったから」
『ネット…?』
何のことだ? 私とは無縁のことばに聞き返す。
「僕と神崎ちゃんが出会った掲示板じゃないか。約束もしただろう? ─── 一緒に死のうって」
『は?』
死ぬ?死ぬって誰が?私とこのストーカーが? んな馬鹿な…!
『ちょっ、人違いだって!私そんなこと言ってないし!』
つーかうちにパソコンなんかねーよ! いや、シズさんの部屋にはあるかもだけど、私に使いこなせる代物じゃない。 パソコンっていったら小学校の頃した一太郎スマイルくらいだ。 しかも内容全然覚えてない。
「人違いなはずないだろ?実際 君が教えてくれたメイドカフェにも行ったんだ。 君がネットでのことを知られたくないと言ったから会話はしなかったけどね」
『他のメイドと間違えたとか…』
「''リホ''という名前のメイドは君しかいないだろう」
『………』
どういうことよコレ… 私自身には見に覚えのないことだ。 しかし彼が言ってるのは明らかに私だった。
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