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♂♀





バイト終了後、私はいつも通り一人で夜道を歩いていた。

くっそー。シズさんの奴迎いに来もしねーよ。
もうちょっと心配してくれてもいいんじゃね?



『………』



さっきからついてきてる。
でもそれはいつもの足音ではなく、車の音だった。

おいおい、何でこんな微妙な道通ってんの。明らかに私を追いかけてきてるじゃん。
サイレントだからって気付かないとでも思ってんですか。
何?手紙の次は誘拐か?走った方がよろしいか?
そっちがその気なら、私だって出るとこ出ますよ。
……決めた。次の曲がり角で決着だ。



タタッ



私は素早く曲がり角をターンして、奴の登場を待ち構える。

あの音が近付いてくる。






















『うぉんだりゃぁぁああっ!!』



ベコッ



決まった…!
綺麗に決まりましたよ、私の制カバンのダイレクトアタックが。
なんたって英和と古語の辞書が入ってるからね。
美しくボンネットをへこませてやりました。

感無量、といった感じの息をついて視線を車の方へ。白いワゴン車だった。
なるほど、誘拐には最適ですな。

ガチャ、と車のドアが開く。
私は思わず身構えた。



「リホっち大胆っすねぇ」

「おい狩沢、どこがか弱い女子高生なんだ」

「まぁまぁ」

「修理代は誰に請求すりゃいいんだよ…」

『………え、』



車から出てきたのは狩沢さんとゆまっちさんと…見知らぬお兄さんが二人。

…あり?



『えっと…何で狩沢さんとゆまっちさんがここに…?』

「驚かして悪かったな」



見知らぬお兄さんの一人である帽子を被った彼がため息混じりに言った。



「俺は門田。で、そっちが渡草だ。いつも狩沢と遊馬崎とつるんでる仲間みたいなもんだな」

『門田、さん?』

「私はドタチンって呼んでるけどね」

「余計なこと言うんじゃねーよ」



ドタチン?ドタチンさんでいいのかな。
ていうかドタチンってすごいあだ名だな…



『神崎里穂です』

「ああ、いつも狩沢達が通ってるメイドカフェの店員なんだってな」

「てかリホっちそれ制服?超純粋系!」

「ギャップ萌えってやつっすか?」

「お前ら、話をそらすなよ」



ボケとツッコミがうまい具合にマッチしている。
渡草さんはというと、へこんだボンネットを見つめて半泣きになっていた。



「狩沢からストーカーに困ってるって聞いてな。心配だから後ろからつけてたんだが…」



ドタチンさんもへこんだボンネットを見る。

ヒィィイ!!すみません!



『私てっきりストーカーかと思って!べ、弁償…!』

「いや いい。何も言わずつけてたから間違えられて当然だ。なぁ渡草」

「……ああ、まぁな…」



いいのか本当に…
確かにすぐにお金を用意するのは無理だけどさ。



「だがこれが本当にストーカーならお前今頃連れ込まれてるぞ」

「そうそう、こんな時に夜道を一人で」

「一緒に住んでる親戚は迎えに来てくれないんすか?」

『あー、まぁ…』

「薄情なやつだな」



そうなんですよ!もっと言ってやって!出来れば面と向かって!
私は死にたくないから言えませんが。









――…それから、ドタチンさん達は私の遠慮を無視して家の近くまで送ってくれた。
(さすがに家まで送ってもらうわけには行かない)
その時車の中で狩沢さん達に様々なコスプレを薦められたが丁重にお断りした。



「本当に家まで送らなくていいんすか?」

『はい、もうすぐそこだし』

「じゃあな。気を付けて帰れよ」

『はい、ありがとうございました!…渡草さんも本当にすみませんでした』

「…いや、気にすんなって…」

「またねー!リホっちー!」



ブンブンと手を振る狩沢さんに手を振り返して家路につく。

それにしてもドタチンさん いい人だったなー。シズさんとあんまり年齢変わらないんじゃないか?
狩沢さん達もすごく優しい人達だ。
今度お店に来た時サービスしてあげよっと。



『シズさんただいまー!』

「テンション高いんだよ お前は」




――呑気な私は、これから起こることなんて知る由もなかったのである。





2へ続く


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