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『あぁ〜、どうしよう…』
行く宛もないし、どうしたらいいかもわからないから、途方もなく歩いていた。 私はソファーで寝てたはずなのに… どうもコレは夢じゃないっぽい。 まじかよー。タイムスリップかよー。 まあ実際それしか考えられないから簡単に受け止めちゃうけどさ。順応性いいからさ。
『どうやって帰るんだよ!』
うつらうつら寝てたらこれだもんなァ!
ドンッ
「きゃ、」
頭を抱えてどうするか考えてたら、目の前で男の子と女の人がぶつかった。 女の人はその場に倒れて、買い物袋からジャガイモが転げ落ちる。
『だ、大丈夫ですか!?』 「えぇ…ありがとう」
眼鏡をかけた綺麗な女の人は、ニコリと笑った。 つーかぶつかったんなら謝るくらいしろよ!そう思って女の人にぶつかった男の子を見る。
「…………」
黒い髪、赤い瞳―――… 見たことある男の子だった。しかもかなり美形な。
『………臨也さ、』
思わず自分の口を手で抑えた。
これ以上関わっちゃ駄目。なんとなくそんな気がしたのだ。 目が合うと、ちびっこ臨也さんは走って行ってしまった。
愛想ねェェェ!なんてガキだ!
「よいしょ」
『あ、持ちます』
女の人は松葉杖を使って歩いていたらしい。 転がったジャガイモを拾い、私は買い物袋を持った。
「大丈夫。すぐそこだから」
『そう言わずに!私 今超暇ですから!』
「…?」
一人でいたらどうしたらいいか分からなくなる。 どうせ帰るところなんてないんだし。
「なら、お願いしようかな」
私のお願いに近い親切を、彼女は快く了承してくれた。
♂♀
『パン屋さんなんですねー』
「えぇ、主人と二人でやってるの」
カランカラン、とドアを開けるとパンのいい匂いが漂う。
「はい、これ。お礼」
手渡されたのは瓶に入った牛乳。
この牛乳、いつもシズさんが買ってくるやつと同じメーカーだ。 偶然?それとも、
『…ありがとうございます』
「あ、私が飲んだ方がいいって思った?」
『!…いえそんな!』
「ふふ、冗談よ冗談」
笑っていいのか?なんかギリギリのラインだ…
『足、骨折ですか?』
「えぇ、ちょっと色々あって…」
『色々?』
首を傾げると、聞いてくれる?と彼女は怪我の原因を話始めた。
―――…数日前、このパン屋にチンピラ共がやって来た。 不幸にも主人は留守中。 絡んでくるチンピラ共に無駄と分かりながらも抵抗していると、少年が一人、店に入ってきた。 そして少年は何も言わず、近くにあった棚を持ち上げ、チンピラ共に投げつけた―――
この時点で、勘のいい私はピンときた。 棚を軽々持ち上げれる少年なんて一人しかいない。
『じゃあその怪我は…』
「その子が投げた棚の下敷きになっちゃって…でもそんな事は気にしていないの。助けようとしてくれたのは事実なんだし」
その少年は学校帰り、いつも店の前を通る子だったという。だがその事件からめっきり見なくなったらしい。 そりゃそうだわなー。助けようとしたのに逆に怪我させちゃったわけだもんな。 今日の公園でのチンピラ共もその時の奴等だったのかも…
「本当はお礼を言いたいんだけどね」
彼女は苦笑しながら、包帯の巻かれた足を眺めた。
♂♀
パン屋のお姉さんと別れた後、私は牛乳を飲みながらこれからのことを考えていた。
マジどうしよう… 一生このままなのか?そんなの絶対やだ…! 大体お金も何も持ってないし!完全にホームレスじゃん!
『……帰りたい…』
そうボソリと呟くと、視界がグニャリと歪んだ。
『…っ…!』
何よもう!タイムスリップの次は立ち眩み!? どうなってんだ私の身体…! 今度新羅さんにでも解剖してもらうか!?
我ながら怖いことを考えながら、私は立っていられなくなって重力に身体を預けた――…
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