5


『あぁ〜、どうしよう…』



行く宛もないし、どうしたらいいかもわからないから、途方もなく歩いていた。
私はソファーで寝てたはずなのに…
どうもコレは夢じゃないっぽい。
まじかよー。タイムスリップかよー。
まあ実際それしか考えられないから簡単に受け止めちゃうけどさ。順応性いいからさ。



『どうやって帰るんだよ!』



うつらうつら寝てたらこれだもんなァ!



ドンッ



「きゃ、」



頭を抱えてどうするか考えてたら、目の前で男の子と女の人がぶつかった。
女の人はその場に倒れて、買い物袋からジャガイモが転げ落ちる。



『だ、大丈夫ですか!?』

「えぇ…ありがとう」



眼鏡をかけた綺麗な女の人は、ニコリと笑った。
つーかぶつかったんなら謝るくらいしろよ!そう思って女の人にぶつかった男の子を見る。



「…………」



黒い髪、赤い瞳―――…
見たことある男の子だった。しかもかなり美形な。



『………臨也さ、』



思わず自分の口を手で抑えた。

これ以上関わっちゃ駄目。なんとなくそんな気がしたのだ。
目が合うと、ちびっこ臨也さんは走って行ってしまった。

愛想ねェェェ!なんてガキだ!



「よいしょ」

『あ、持ちます』



女の人は松葉杖を使って歩いていたらしい。
転がったジャガイモを拾い、私は買い物袋を持った。



「大丈夫。すぐそこだから」

『そう言わずに!私 今超暇ですから!』

「…?」



一人でいたらどうしたらいいか分からなくなる。
どうせ帰るところなんてないんだし。



「なら、お願いしようかな」



私のお願いに近い親切を、彼女は快く了承してくれた。









♂♀










『パン屋さんなんですねー』

「えぇ、主人と二人でやってるの」



カランカラン、とドアを開けるとパンのいい匂いが漂う。



「はい、これ。お礼」



手渡されたのは瓶に入った牛乳。

この牛乳、いつもシズさんが買ってくるやつと同じメーカーだ。
偶然?それとも、



『…ありがとうございます』

「あ、私が飲んだ方がいいって思った?」

『!…いえそんな!』

「ふふ、冗談よ冗談」



笑っていいのか?なんかギリギリのラインだ…



『足、骨折ですか?』

「えぇ、ちょっと色々あって…」

『色々?』



首を傾げると、聞いてくれる?と彼女は怪我の原因を話始めた。

―――…数日前、このパン屋にチンピラ共がやって来た。
不幸にも主人は留守中。
絡んでくるチンピラ共に無駄と分かりながらも抵抗していると、少年が一人、店に入ってきた。
そして少年は何も言わず、近くにあった棚を持ち上げ、チンピラ共に投げつけた―――

この時点で、勘のいい私はピンときた。
棚を軽々持ち上げれる少年なんて一人しかいない。



『じゃあその怪我は…』

「その子が投げた棚の下敷きになっちゃって…でもそんな事は気にしていないの。助けようとしてくれたのは事実なんだし」



その少年は学校帰り、いつも店の前を通る子だったという。だがその事件からめっきり見なくなったらしい。
そりゃそうだわなー。助けようとしたのに逆に怪我させちゃったわけだもんな。
今日の公園でのチンピラ共もその時の奴等だったのかも…



「本当はお礼を言いたいんだけどね」



彼女は苦笑しながら、包帯の巻かれた足を眺めた。









♂♀









パン屋のお姉さんと別れた後、私は牛乳を飲みながらこれからのことを考えていた。

マジどうしよう…
一生このままなのか?そんなの絶対やだ…!
大体お金も何も持ってないし!完全にホームレスじゃん!



『……帰りたい…』



そうボソリと呟くと、視界がグニャリと歪んだ。



『…っ…!』



何よもう!タイムスリップの次は立ち眩み!?
どうなってんだ私の身体…!
今度新羅さんにでも解剖してもらうか!?

我ながら怖いことを考えながら、私は立っていられなくなって重力に身体を預けた――…


[ 5/10 ]

[*prev] [next#]



[しおりを挟む]