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目の前で起きていることを頭で整理しているうちに少年は力尽きたらしく、電灯をその場に落として座り込んだ。
息切れ凄まじいよ この子。
『大丈夫?なんかボキボキいってたけど…』
骨折れてるんじゃないの? そう聞いてやると少年は驚いたように目を丸くした。
「…にげろよ」
『え?逃げ…?』
「ふつうじゃねーだろ!こんなの!」
普通じゃないって何が? …あ、電灯持ち上げるのがか… 駄目だあたし!常識が麻痺してきてる!超自然に受け入れてた! そうだよ、普通じゃないんだよ。
だけど、
『…………』
少年の肩は震えていて、 今にも泣き出しそうなその声に、私は何も言えなくなってしまった。
「…またやったの」
「………かすか」
公園の出入口の方からした声に振り返る。すると小柄な少年が一人、無表情で立っていた。 ''かすか''…そう呼ばれた少年は、座り込んでいた少年の元へ近付き、肩を抱いて立ち上がらせた。
「かえろう」
「…おう」
小柄な方の少年は私と目が合うと、ぺこりと頭を下げる。私もそれにつられた。 そしてそのまま何も言わず、よろめきながら公園を出ていこうとする。
え、帰っちゃうの?いやもう夕方だし子供は帰った方がいいんだけどさ…
『ちょ、ちょっと!』
「「…?」」
♂♀
『少年、もっとしっかり掴まってよ。落ちるから』
「しょうがないだろ!うでに力入らないんだよ!」
『折れてんじゃないのソレ…』
「…こっち」
『はいよー』
背中に程よい重みを感じながら、家が何軒も連なった道を歩く。
公園で彼らを思わず引き止めてしまった私。 自分でも何そうしたのかはわからない。(決して心細かったというわけではない…はず) どうしていいか迷ったあげく、怪我をした少年を背負って家まで送ることにした。 もちろん''かすか''という少年が道案内係だ。
『ちゃんと帰ったら病院に行きなさいよ。あんなもん持ち上げて骨が無事なわけないんだから』
「…うるさい」
この子ったら反抗期かしらね。 大体あんなんで無事なのはシズさんぐらいなんだら、いい子はマネしちゃいけません!
『そういえば、いっつも絡まれるの?』
「なにが?」
『ほら、あの柄の悪いオニイサン達』
「この前ぶっとばしたら しつこくなった」
『何でまたそんなこと…』
「かんけいないだろ!」
『はいはい、スイマセンネー』
くそ生意気な奴め。 棒読みで謝ってやると頭を殴られた。 本当に腕に力が入らないみたいで全然痛くなかった。
元々私が丈夫だからかもしれないけど。 だってほら、 シズさんのデコピンという名の一歩間違えれば撲殺になりかねない行為で日々鍛えられてますから。 あれで手加減してくれてるらしいから余計恐い。
『何あったか知らないけど、ガキンチョは大人しくしてるのが身のためだよー』
「ガキンチョじゃねーよ!おれにはシズオってなまえがあるんだ!」
『………はい?』
「で、そっちが弟の幽」
「よろしく」
あー、弟くんだったのねー… じゃなくて!! 待て待て待て!落ち着け私!シズオなんて名前よくある名前じゃん! 名字だって違うかも知れな、
「ここ」
若干慌てる私をオール無視し、幽くんは目的地を指差した。
駄目だこの子!空気読めない子だ!
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