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「静雄ー、そろそろ次行くぞー」
「はい」
俺は先程まで真実の愛について語っていた男に頭突きを食らわし、トムさんの後を追った。
この仕事を始めてもう随分経つが、素直に金を返した人間は数える程だ。 理由は様々だが、多いのは所謂 色恋沙汰というやつである。 さっき頭突きを食らわした男もそのクチだった。
「にしても、いい歳した大人が女子高生に貢ぐたァ…世も末だわなあ」
「…そうっすね」
女子高生。 そう、男が借金までして入れ込んでいた相手は女子高生だった。歳は確か18歳の高校三年生。 援助交際…とまでいかないものの、似たようなものには変わりはない。
18っつったら、里穂と同じ歳じゃねぇか。 女子高生を日々身近に感じている俺にとって、他人事とはとても思えなかった。
───あいつ、いっつもバイトバイトっつってるけど、具体的に何のバイトなんだ? まさか……いや、里穂に限ってそれはないか。そんな器用なこと出来る奴じゃねぇしな… どうせコンビニとかだろ。
「俺にとっちゃ高校生なんてガキ同然なんだが……あ、高校生といえば静雄、最近あの子どうしてんだ?」
「あの子?」
「ほら、この間 一緒に住むことになったって言ってた……里穂ちゃん、だっけか?」
「ああ…」
そういや、トムさんにはちゃんと紹介してなかったな。
「今度会わせます」
「いいよ。恐がらせちまうかもしんねーし」
「いや大丈夫っすよ。あいつ神経図太いんで」
「…そうか。なら機会があったらな」
トムさんを恐がるくらいなら俺となんか住んでるわけねぇ。
「年頃の女の子と住むのは色々大変なんじゃないか?特にあの子繊細そうだし」
トムさんの言葉に思わずくわえかけた煙草を落とした。
繊細!?繊細って言ったかこの人…! 繊細って…里穂が?里穂が繊細? 今朝の里穂の姿がフラッシュバックした。
……ありえねえ。
「トムさん、里穂はトムさんが思っているような奴じゃないっす。多分」
「へぇ」
驚くのも無理ないか。 トムさんは俺と里穂と会って間もない頃一度会っただけだ。いや、会ったというよりは見たに近い。 里穂はずば抜けて可愛いというわけではないが、中身が中身なだけに見た目でかなり得するタイプだ。と、俺は思う。
「あいつ、すげえ貧乏性なんすよ。俺と住む前は主食がパンの耳だったらしくて…」
そう言うと、トムさんは「マジで?」とカラカラ笑った。
冗談だと思ってんな… 俺も初め聞いた時はネタだと思っていた。 けど俺と住むことになり、里穂の荷物を取りにアパートに行った時、大量のパンの耳があるのを見て真実だと確信した。 この間サイモンのところに行った時も、かなりのテンションの上がりようだった。
寿司食いに行くぞ、と言った瞬間のあの顔が忘れられない。 よっぽど興奮してたのか 『シズさん!今なら私カメハメ波出せる気がする!』 と言われた時はさすがに対処に困ったが。
「まぁ仲良くやってるならそれに越したことねぇよな」
「…………」
トムさんの言葉に頷きそうになったのは絶対に秘密だ。
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