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「幽平くん、この子は…?」

「朝 言ってた代役です」

「………ええ!?!!?」



そりゃそうなりますよねー!
バカなんですよ このイケメン!
実は兄貴に似てバカなんですよ!!



「羽島くんの知り合いだしどこかのモデルだと思ってたんだけど…」



この子かー…と何とも言えない苦笑いを浮かべるスタッフさん。
…ああ、もうやめてくれ。これ以上は公開処刑ですよ。
実は幽さん 私のこと大嫌いなんじゃないの?
場違いすぎて泣けてくるって言ったけど、むしろ逆に笑えてくる。



「クリスティーヌ鈴木さんはいますか?」

『クリ…』



幽さんから聞き慣れない名前が出た。
何だって?クリスティーヌ??



「はぁ〜い」



クネクネとした歩き方、派手な服装。
奥の部屋から出てきた人は顔と髪型は完璧に男だ。だけど身振り手振りがあたしより女子っぽい。
以上のことをまとめると、つまりこの人は"そっち系"の人だ。



「羽島くんとお仕事久しぶりだわ
〜!会えない間すっごく寂しかったんだからっ!」

「クリスさん、この子をお願いしたいんです」



幽さんのスルースキルすげー!!
クリスさんは幽さんの反応に少し不満そうしにしてから私を見た。



「あら、何この女」

「今日の代役です」

「代役ってモデルの?…やだ、素人じゃないの」

「でも、クリスさんなら彼女を変えられますよね」



じっ、と幽さんがクリスさんを見つめた。クリスさんはその目線に頬を染める。
そして「当たり前じゃない!」と自信満々に笑った。



「ちょっと顔をよく見せて」

『…えっ』



ぐい、と顎を掴まれて顔を上げさせられた。
近い近い近い!!クリスさん顔近い!!



『あの…』

「肌は若いだけあって綺麗ね。化粧水は何を使ってるの?」

『け、化粧水?…使ったことないですけど…』

「なんですって!?あんた!若いってタカくくってたらえらい目合うわよ!」

『すいませんでした!』



ヒィイイ!怖い クリスさん…!



「でも元は悪くない。この顔は目を弄ったら変わるわよ〜」

「よろしくお願いします」

「任せて羽島くん。…さあ 行くわよ!」

『ちょ、ちょっと…!』



クリスさんに押されてメイク室へ。
助けを求めたが意味はなく、幽さんは相変わらず無表情で手を振っていた。



「はい、ここに座って」



大きな鏡の前に座る。
こ、これが芸能人がよく言ってるメイク室か…
見慣れない景色にきょろきょろしてしまう。



「あんた、羽島くんとはどういう関係?」



鏡ごしにクリスさんと目が合う。
どういう関係…?う、うーん…難しいな…
友達…はなんか違うし…



『知り合いっていうか…幽さ…羽島さんのお兄さんにお世話になってる者です』

「へえ、あのお兄さんのねえ…」

『知ってるんですか?』

「噂だけよ。これでも羽島くんのデビュー当時からの付き合いなの」



化粧水を付けたコットンを顔にはたかれた。
冷たくて目を瞑ってしまう。
みんなこういうのを毎日してるのか。大変だな。



「彼、あまり感情を表に出さないでしょ」

『はい』



と、言ってもシズさんには何となく分かるみたいだけど。
やっぱり長年連れ添ってると分かるものなんだろうなー。
私には全く何考えてるか分からないよ。もちろん今回のことも含めて。



「お兄さんの影響らしいのよねえ。あれ」

『え?』

「いわゆる反面教師ってやつ?お兄さんの方が感情豊からしくて」

『あー…』



豊かっつーか全面に出してますね。特に怒りを。
…そっか、幽さんのポーカーフェイスにはそんな理由が…



「でも何かと尊敬はしてるみたい」

『え゛』



マジすか。幽さんがシズさんを?
こんなことを聞いたら怒られそうだけど 例えばどの辺りを…
…ま、まあ仲が良いのはいいことだ。



「ここからが本番よ〜!女優顔負けにしてあげるんだからっ!」



…わ、私どうなるんだろう…
気合い十分なクリスさんに私は不安を感じずにはいられなかった。


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