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プルルル―…プルルル――…
無機質な呼び出し音が耳に届く。 もしかしたら仕事中かもしれないな、と半分諦めかけていたら、プッという音がして音が止まった。
《「…もしもし?」》
『あ、シズさんですか?神崎里穂ですけど…』
あれ、でもなんか声が違うような…
《「あー、静雄の知り合いか?」》
『え?はい…?』
《「俺はまぁ静雄の上司みたいなもんでな。今静雄が出れねぇ状態だから代わりに出たんだが…」》
おーい静雄、と呼び掛けてくれたが、返事の代わりにガッシャーン!という激しい物音が聞こえた。
えぇ!?電話の向こうで何起きてんの!?
《「ちょっと立て込んでてなぁ…急用なら伝えとくぞ」》
『あー…』
伝言を頼む…わけにもいかないよな、やっぱり。 大切なことだし。
『あの、今どの辺ですか?』
《「キャンベルっていうキャバクラだけど…来る気?」》
『あ…駄目ですか?』
ハッハーン、さてはシズさんめキャバクラでお姉さん達とイチャイチャしてんだな。 あーやだやだ!んな所で使う金があんならあたしにくれよ、切実に。
《「別に構わねえけど…結構荒れてるよ?」》
『荒れてる?』
相当酔ってるってことか?
荒れてるという言葉に少し引っ掛かりながらも、私は『行きます』と返事をして電話を切った。
「用事は済んだ?」
『はい。先輩、キャンベルっていうキャバクラが何処にあるか知ってますか?』
「えぇ、知ってるわよ。この店沿いに右に行けばあるわ。看板が大きいからすぐ分かると思うけど。行くの?」
『ちょっと用事があって…』
「そう、補導されないように気を付けてね」
『はい。携帯ありがとうございました!』
綺麗にデコレーションされた携帯を返し、軽くお辞儀をしてロッカールームを出た。
♂♀
『ここか…』
バイト先の店を出て、先輩の言う通り 右に真っ直ぐ歩くと''Canbel''と書いた大きな看板が。
なるほど、確かに分かりやすい。 キャバクラとか入るの初めてだな…そりゃそうか。ホストクラブとかならまだしもね。
ドキドキしながらオシャレな扉を押す。
『すいま……』
せん、と言い切ろうとしたが、それは叶わなかった。 中を覗いた瞬間、の光景に目を奪われてしまったからだ。
何故か落ちてるシャンデリア、横倒しになってるソファーやテーブル。 そして何より、知らない男の胸ぐらを掴んで何やらキレてる様子のシズさん。 電話で話した''静雄の上司''が言った通り、確かに''荒れて''いた。 しかも、そんな状況で私が扉を開けちゃったため、そこにいる人間の視線が全て私に集中する。
『…………』
沈黙。
「里穂『ま、間違えましたァァァ!』
ばたん!
シズさんが何か言おうとしてた気がするけど気のせいだ! 私は構わずに扉を勢いよく閉め、その場をいち早く離れた。
ま、0.3秒でシズさんに捕まっちゃったんですけどね。
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