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『お待たせしました 幽さん』



学校が終わり、裏手に止まっていた車を覗いた。
クマをとった幽さんはやっぱりテレビで見る羽島幽平で、少しドキリとしてしまった。



『二時間も待たせてしまってすいません…』

「別に平気。俺が急に来たんだし。元々"入り"は遅い時間だから」

『へえ…?』



業界用語はよく分からないから聞き流した。
それにしてもフェラーリって…
芸能人ってすごいなー。こんな車近くで見るの初めてだ。



『それで…お願いっていうのは…?』

「とりあえず乗って。話はそれから」



言われた通り助手席に座る。
幽さんが車のエンジンをかけた。



『あ、シートベルト……?』



斜め上にあるはずのシートベルトが無い。
あれ?と迷っていると、腰の辺りに手が伸びて来た。



「ごめん。ベルト、こっちなんだ」

『………ち、』

「…ち?」



近い…!!!!
幽さんは私のシートベルトを締めるために、運転席から身体を倒す。
あまりの近さにあたしは身体を強張らせた。
幽さんの髪が!腕が!こんな近くに…!!!



「里穂さん?」

『もう本当すいません!慣れてないもんで…!もう本当…!』

「そんな必死にならなくても。この車、造りが変わってるから」



かちん、とベルトがはまる音。

そうじゃねーよ このイケメン!!
いや車も凄いけども!一般ピーポーが俳優にこんなことされて平気でいれるとでも!?
JKのときめきセンサーなめんなよ このイケメンが!!イケメン!本当にイケメンだな 幽さん!!

そんな罵倒なのか褒めてるのかよく分からない気持ちを抑え、『ありがとうございます…』とやっとの思いで絞り出した。
車がゆっくりと動き出す。



『どこに行くんですか?』

「スタジオ」

『スタジオ?』



え?スタジオってあのスタジオ?
芸能人が撮影とかする…



『何で!?』



思わずタメ口できいてしまった。
幽さんがスタジオに行くのは分かるよ?けど何で私が?
驚く私を余所に幽は相変わらずポーカーフェイス。



「実は今日、一緒に撮影するはずだったモデルの子が体調崩しちゃって」

『………まさか、』

「代役をお願いしたいんだ」

『無理です』



無理に決まってんだろ。何言い出すんだこの人は。
何度も言うように私は一般ピーポーです。



「うん。そう言うと思って先に車に乗ってもらった」

『む、無理です無理です無理です!モデルの代わりって!本当無理!』

「でも もうスタッフに言っちゃったし」

『え!?』

「今更代わりを探すのは大変だと思う」

『…………』



開いた口が塞がらない。
か、幽さんって見かけによらず策士っていうか何ていうか…



「里穂さん、俺を助けると思って…駄目、かな」



や、やめろぉおお!!!
…こんなイケメンにこんなこと言われて断れる女子がいたら挙手お願いします。
私はその人に一生着いて行こうと思う。

赤信号で、幽さんが私と目を合わせた。はあ〜、と深いため息をついて、頭を抱える。



『…幽さんのイケメン』

「?…ありがとう」



断れるわけ、ないじゃないか。





















「ここ。入って里穂さん」



やっぱ無理。

直ぐさまUターンしようとしたら幽さんに止められて中に押し込まれた。
高い天井、沢山のライト、でかいカメラ…
自分が場違いすぎて泣けてくる。何の罰ゲームですか これは。



「羽島幽平くん 到着でーす」

「今日はよろしくね、羽島くん」

「こちらこそよろしくお願いします」



スタッフのお兄さんと何だかお偉いさんらしき人と挨拶を交わす幽さん。
スタッフさんが私をチラリと見て首を傾げた。


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