1



だからこういうのお断りなんですって!



私と彼と非日常 16





「ねえねえ里穂、このワンピどう思う?」

『あー、いいんじゃない?可愛い可愛い』

「…適当に言わないでよ」



昼休み。
いつもの如く真央ちゃんはファッション雑誌を広げ、ペラペラとページをめくった。



『適当じゃないよ。ちゃんと見てます』

「コロッケパン片手に何言ってんだか」

『真央ちゃんが着れば例えターザンルックでもパリコレは出れるね』

「あら ありがとう。コロッケパン鼻に突っ込むよ?」

『ごめんなさい!』



いつになく真剣な眼差しに食い気味に謝ってしまった。
…コロッケなんか鼻に入れられたらすごく痛そうだ…



『…あ、かす…羽島幽平だ』



真央ちゃんが雑誌を立てた時に見えた裏表紙。
そこにはシズさんの実の弟…そして人気俳優でもある幽さんが載っていた。
あっぶな!思わず本名を言ってしまうところだった!



「流行に疎い里穂でも羽島幽平は覚えてるのね〜」

『私といえば羽島幽平、羽島幽平といえば私じゃん?』

「あんたもうマジで何なの?
どこに突っ込んでほしいの?」



真央ちゃんの言う「突っ込む」が漫才の「ツッコミ」ではない。
そのことに気付いた私は素早く持ってたコロッケパンを口に入れた。



「まったく……? 何アレ?」



ため息をついて、真央ちゃんが不意に窓の外を見た。



『なにー?UFOでも飛んでる?』

「……クマ」

『クマぁ?そんなもんがこんな都会にいるわけないじゃん』



何言ってんだか、といちご牛乳を飲む。真央ちゃんってたまに何の脈絡もない嘘つくんだから。



「…フェラーリに乗ったクマがいるのよ」

『あははは!そんなのいたら池袋中逆立ちして歩くね!』

「…………」

『ゴフォッ!』



真央ちゃんは私の頭を掴んで窓の方へ向けた。
く、首がァ!首がァァアアア!!!



『ちょ、真央ちゃん 痛い!』

「いいから見てみなさいよ」



有無を言わせない物言いに仕方なく従う。
真央ちゃんの言う通り、確かに赤い高級車が校門の前に止まっている。
金持ちって何でこうも車にお金をかけるんだろう。そんな素朴な疑問を考えながら、車の傍に立っている影を見た。



『…………』



ぼとり。

いちご牛乳が床に落下する。



「ね?クマでしょ?」



うん、クマだね。
もっと正確に言うと、クマの着ぐるみだね。しかも頭だけ。
真央ちゃん、私何だかあのクマ見たことあるような気がするよ。
あの可愛らしい満面の笑みのクマは、そう…確か私が"彼"にあげた…



『…ちょっとトイレ!』

「え?ちょっ、里穂!」



私は勢い良く席を立ちクマの正体を確かめに行くことにした。
「逆立ち楽しみにしてるわよー!」という真央ちゃんの声はこの際聞こえなかったことにしておく。










♂♀









『幽さん…!!』



本名の名前を呼ぶと、幽さん…もといクマがこちらを向いた。
校門の門はまだ閉まっていて、内と外で話すかたちになる。



「今、連絡しようと思ってた」

『何でこんなところに…シズさんならまだ仕事中ですよ…っていうかクマ…』



そんなに気に入ってたのかな…
もしかして、これは幽さん流のボケか?突っ込んだ方がよろしいのか?



「里穂さんに会いに来たんだ」

『えっ?』



私?



「里穂さん、今日バイトある?」

『?…いや、今日はオフですけど…』

「良かった。お願いがあるんだ」

『お願い…っすか』



何だろ。何となくだけど嫌な予感しかしない。



「里穂さんの時間を、俺にください」

『………は?』



ビックリするぐらいときめかないのは100% クマのせいだ。



[ 1/5 ]

[*prev] [next#]



[しおりを挟む]