2



「お待たせしました ご主人様っ!アイスコーヒーです!」



私は何事も起こらないように厨房の方からまろん達を見守った。
厨房から一番近い席にいる狩沢さん達がニヤニヤしながら私を見ている。



「気になるんだー?」

「気になるんすねえ」

『そりゃそうですよ。店潰されちゃシャレになりませんからね』

「本当にそれだけなのかしらねえ」

『は?』



狩沢さんの言葉を理解する前に、シズさんの声が耳に届いた。



「…どうも」

「ガムシロップ多くねーか?」

「ふふ、これは平和島さんの為に持ってきたんですよう」

「俺?」

「お、よくコイツが甘党だって気付いたな」

「えへ、ご主人様のことなら何でも分かっちゃうんですっ!」

「…すげえな」



それ私が用意したんだろうが!!
メイドはエスパーじゃねーんだよ!シズさんも何素直に驚いてんの!



「私が入れますね!」



ガムシロップを静雄さんが持ったグラスに注ぐ。



「おいしくなぁれっ おいしくなぁれっ!萌え萌えきゅんっ」



パリィン!!



「きゃあっ!」



まろんの「きゅんっ」とほぼ同時にグラスが粉砕した。もちろん静雄の手によって。
コーヒーも半端じゃ無いくらい零れていた。

やっぱり やりやがった!
どんだけ免疫ないんだよ シズさん!
私は急いでタオルを持って駆け寄る。



「大変っ!」

『まろん怪我は!?』

「大丈夫ですっ それより平和島さんは…」

『大丈夫大丈夫!ね!』

「あ、ああ…」

「お洋服が!」



まろんがポケットからハンカチを取り出してシズさんの袖口に触れた。



「ごめんなさい」

「いや、悪ぃ。ちょっと力入れ過ぎちまって」

「あはは、ちょっとなんですかぁ?」



…おい、顔が赤いぞ平和島静雄。



「お洋服、落ちるといいんですけど…」

「大丈夫だろ」



大丈夫じゃねーよ。
誰が洗うと思ってんですか?コーヒー なめんなよコラ。
普段 他のチンピラが染みを付けようもんなら、自分に落ち目があってもタダじゃ済まさないくせに。



『…ケッ』



私はグラスの破片を全部拾ったのを確認して、元いた場所に戻った。










♂♀










「やっぱり、平和島さんは素敵だなあ」



ロッカールームで うっとりするまろん。
えー、今日のどこを見てそう思うんだろう この人。



『片手でグラス粉砕するような人が?』

「もう!里穂先輩 意地悪言わないでくださいよう!」

『べ、別に意地悪じゃないけどさ』



そんな言い方だったかな 今の…
でもなんだか気が立っているのは確かだった。それがどこから来るものなのかは分からないけれど。
…落ち着け私。



「ああ見えて実はすっごく優しかったりするんだから!」



そりゃあ優しいのは認めるよ。
認めるけど…何でだ。今は認めたくない。



「里穂先輩、実は平和島さんと知り合いでしょう?」

『えっ!?何で!?』

「今日の言動見てれば分かるよ。私そこまで鈍感じゃないの!」



鈍感ねえ?
もうまろんについてはどこまでが計算でどこまでが計算じゃないのか全く分からない。
むしろ全部計算してんじゃないかって思えてくる。…天然だと信じたい。



『まあ…色々あってね』

「…じゃあ里穂先輩に一つお願いしてもいいですか?」

『う、うん?』

「私と平和島さんの仲 取り持ってくださいっ!」



は!?



『いや無理無理無理!私そういうの無理!ノーセンキュー!』

「どうして?大丈夫だよ ちょっと約束とりつけるだけでいいから!ね?」



これ以上面倒なことになるのはお断りなんだよ!
恋愛絡みなら私のいない所でやってくれ!と思うけれど。



「こんなこと、里穂先輩にしかお願いできないの…」



…何せ私はこの言葉に弱い。
上目遣いで見つめてくるまろんに、溜息混じりに頷いた。



[ 2/12 ]

[*prev] [next#]



[しおりを挟む]