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───────…
「ねえねえドタチン!メイドの里穂っちどうだった?」
もうじき日付けが変わろうとする時間。 白いワゴン車の中はその時間を感じさせないくらい賑やかだった。 さっきまで遊馬崎とアニメの賛否両論を繰り広げていた狩沢は、身を乗り出して助手席にいる門田に尋ねる。
「どうって何だ」
「いやあ、一応 私イチオシのメイドだからさー」
「意外だな。お前等はあのピンクの方が好きなんじゃないのか?」
門田は里穂の隣にいたまろんを思い出して言った。 雰囲気といい、"そういうもの"を求めてあの店に行くのだと思っていたからだ。
「まろんちゃん?やだなー、ドタチン。それはミーハーの楽しみ方だよ」
「そうっすよ。ああいうメイドは他にいくらでもいるんすよ。あ、もちろん好きなんすけど」
「里穂っちの方が十分希少価値なわけ!」
「バイトのメイドに希少価値も何もないだろ」
黙って話を聞いていた渡草が横から口を挟む。
「あるの!今日だってたまにしか呼んでくれない里穂っちの"ご主人様"が聞けたのよ?」
「門田さんズルいっすよー!来店一回目にして早速聞けるなんて!」
「それは本当にメイドをする気あるのか?」
門田は益々 狩沢が里穂を贔屓している理由が分からなくなった。 しかし、確かに人当たりが良く、明るい雰囲気なのは初めて会った時から感じていた。 二回ほどしか会ってないのに何故分かるのかと聞かれれば、それもやはり理由は分からないのである。
「……あっ!」
「ぐえっ!」
遊馬崎がいきなり声を上げ、運転席にいる渡草の襟を掴んだ。 渡草はそれに驚いて、急ブレーキをかけた。 狭い通りだから良かったものの、もし大通りだったら大惨事になるところだった。
「おまっ…急に何すんだよ!」
「あれ、まろんちゃんじゃないっすか?」
渡草の言葉を全く気にしてないように、視線を向けた方を指差す。 門田と狩沢もサイドの窓を開けて、そちらに視線を向けた。 狭い路地に続く道。そこには確かに女と数人の男の影。 男達は暗くてあまり分からないが、女の方はちょうど街灯に照らせれている。
「あ、ほんと。…でもなんか雰囲気違う」
「見間違いじゃないか?」
「そんなことないっすよ!見間違うはずないっす!」
門田は遊馬崎の目を疑ったわけではなかった。 高いヒールのパンプスにタイトなミニスカート、露出の多いトップス───…店で見た時と全く違う雰囲気に、思わず口走ったのだ。 しかし、遊馬崎が言うように彼が一度見たメイドを見間違うはずがない。
「何してるのかな?」
狩沢が首を傾げる。
「実は何か怪しい組織と通じた女スパイ!とか?」
「アンジェリーナ?ねぇアンジェリーナ?」
「…あまり良い匂いはしねぇな」
嫌な予感。 門田は何となくそれを感じ取ってはいたが、何せ後ろがうるさい。 とりあえず騒がしい二人を黙らせて、もう一度 路地の方を見た。
「あ、何か渡したっすよ」
女が男達に茶封筒を渡した。 男達は中身を確認するように封筒を開ける。
「…金か?」
渡草が目を細めて呟く。 影になって見えないが、茶封筒は確かにお札の受け渡しによく使うサイズだった。 何故 彼女があんないかにもガラの悪そうな男達に金を渡しているのか。 さっきから見ているが、脅されている素振りは一つもない。
「……………」
だとすれば、行きつく先は一つ。
門田は静かにサイドの窓を閉め、帽子を深く被り直す。 狩沢も同じように窓を閉めてから、遊馬崎と顔を見合わせた。
「なーんか、見ちゃいけないもの見ちゃったカンジ?」
これから起こるであろう"非日常"に狩沢は口角を上げた。
2へ続く
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