5





───────…





「ねえねえドタチン!メイドの里穂っちどうだった?」



もうじき日付けが変わろうとする時間。
白いワゴン車の中はその時間を感じさせないくらい賑やかだった。
さっきまで遊馬崎とアニメの賛否両論を繰り広げていた狩沢は、身を乗り出して助手席にいる門田に尋ねる。



「どうって何だ」

「いやあ、一応 私イチオシのメイドだからさー」

「意外だな。お前等はあのピンクの方が好きなんじゃないのか?」



門田は里穂の隣にいたまろんを思い出して言った。
雰囲気といい、"そういうもの"を求めてあの店に行くのだと思っていたからだ。



「まろんちゃん?やだなー、ドタチン。それはミーハーの楽しみ方だよ」

「そうっすよ。ああいうメイドは他にいくらでもいるんすよ。あ、もちろん好きなんすけど」

「里穂っちの方が十分希少価値なわけ!」

「バイトのメイドに希少価値も何もないだろ」



黙って話を聞いていた渡草が横から口を挟む。



「あるの!今日だってたまにしか呼んでくれない里穂っちの"ご主人様"が聞けたのよ?」

「門田さんズルいっすよー!来店一回目にして早速聞けるなんて!」

「それは本当にメイドをする気あるのか?」



門田は益々 狩沢が里穂を贔屓している理由が分からなくなった。
しかし、確かに人当たりが良く、明るい雰囲気なのは初めて会った時から感じていた。
二回ほどしか会ってないのに何故分かるのかと聞かれれば、それもやはり理由は分からないのである。



「……あっ!」

「ぐえっ!」



遊馬崎がいきなり声を上げ、運転席にいる渡草の襟を掴んだ。
渡草はそれに驚いて、急ブレーキをかけた。
狭い通りだから良かったものの、もし大通りだったら大惨事になるところだった。



「おまっ…急に何すんだよ!」

「あれ、まろんちゃんじゃないっすか?」



渡草の言葉を全く気にしてないように、視線を向けた方を指差す。
門田と狩沢もサイドの窓を開けて、そちらに視線を向けた。
狭い路地に続く道。そこには確かに女と数人の男の影。
男達は暗くてあまり分からないが、女の方はちょうど街灯に照らせれている。



「あ、ほんと。…でもなんか雰囲気違う」

「見間違いじゃないか?」

「そんなことないっすよ!見間違うはずないっす!」



門田は遊馬崎の目を疑ったわけではなかった。
高いヒールのパンプスにタイトなミニスカート、露出の多いトップス───…店で見た時と全く違う雰囲気に、思わず口走ったのだ。
しかし、遊馬崎が言うように彼が一度見たメイドを見間違うはずがない。



「何してるのかな?」



狩沢が首を傾げる。



「実は何か怪しい組織と通じた女スパイ!とか?」

「アンジェリーナ?ねぇアンジェリーナ?」

「…あまり良い匂いはしねぇな」



嫌な予感。
門田は何となくそれを感じ取ってはいたが、何せ後ろがうるさい。
とりあえず騒がしい二人を黙らせて、もう一度 路地の方を見た。



「あ、何か渡したっすよ」



女が男達に茶封筒を渡した。
男達は中身を確認するように封筒を開ける。



「…金か?」



渡草が目を細めて呟く。
影になって見えないが、茶封筒は確かにお札の受け渡しによく使うサイズだった。
何故 彼女があんないかにもガラの悪そうな男達に金を渡しているのか。
さっきから見ているが、脅されている素振りは一つもない。



「……………」



だとすれば、行きつく先は一つ。

門田は静かにサイドの窓を閉め、帽子を深く被り直す。
狩沢も同じように窓を閉めてから、遊馬崎と顔を見合わせた。



「なーんか、見ちゃいけないもの見ちゃったカンジ?」



これから起こるであろう"非日常"に狩沢は口角を上げた。





2へ続く


[ 5/5 ]

[*prev] [next#]



[しおりを挟む]