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♂♀





「お疲れ様〜」

『お疲れ様でーす』

「ねぇねぇ、里穂ちゃん」

『はい?』



ロッカールーム。
営業時間が終了し、先輩メイド達がわらわらと着替え始めた時、一人の先輩が近付いてきた。
エプロンのリボンを解く手を止める。



「まろんって子、どうなの?」

『?…どうって?』

「仕事ちゃんとやってるの?」



やってるけどやる気を感じません。
なんてこの先輩に言っても仕方ないしなあ。
実際最低限のことはやってるし…



『…一応やってますよ』

「なんかあの子感じ悪いのよねー」

「あー、分かる分かる!」



そこから先輩達のトークはヒートアップ。同性ならではの厳しい言葉が飛び交う。
本人はまだホールにいるから、お構い無しだ。
うーん、お局先輩がいたら一喝してくれるのになー。苦手な空気だ。



『で、でもほら!接客はめちゃくちゃ出来るし!』

「接客だけできてもねえ」

「店長もあの子には弱いのよ。絶対顔で雇ってるよ、あのハゲ」

「店長、可愛い子と情には弱いから」



なるほど。
だから対して可愛くない私を雇ってくれたのか。
あの時は必死でバイト探してたからなー。



「世話係、大変だけど頑張ってね」

「それじゃ、また明日」

『はい、お疲れ様でした』



先輩達がドアを開けて出て行こうとした時、ちょうど まろんが入ってきた。
何だか表情が暗い。
偶然にしてはタイミングが良すぎる…もしかして聞いてた?



『お、お疲れ…』

「…お疲れ様です」

『…………』

「……………」



沈黙。

気まずゥゥウウウ!!!
な、何か話せ…!なんか無いのか話題!



『あのっ「里穂先輩」

『…はい…』

「気を遣わなくていいですよ?私、慣れてるんだ。こういうの」



苦笑しながら言うまろん。
…何なんだ。いつものあのブリブリな生意気具合は何処にいったんだ。
そんなこと言われるとフォローするしかないじゃん。



『まあ…確かに接客しかしないのは問題だけど、これから覚えていけばいいし…
ぶっちゃけ、まろんが人気出てるから先輩達が焦ってるんだよ』

「…里穂先輩、優しいですね」

『…………』



おお…
なんか調子狂うな…



「…里穂先輩は、」

『ん?』

「里穂先輩はどうしても許せない人っている?」



全く想像もしてなかったまろんの言葉に、再び手が止まる。
これは…俗に言う悩み相談というやつか…!?



『あー、うーん…』

「いないよね。里穂先輩みたいな人には」



例えば、人のデザート食べる奴とか、店での会計を誤魔化す奴とか…
考えればいくらでも出てきた。
しかしまろんが言っているのはそういうことじゃないのは安易に予想がつく。



『まろんにはいるの?』

「いるよ」



ロッカールームの空気が重い。
まろんの言葉がやけに響いて聞こえた。



「私と、私の大切な人を傷付けて…それでも平気でいる人」



ばん、

少し乱暴に閉まるロッカー。



「許せない」



何があったの?とは聞けなかった。
聞いたところで、まろんに答える言葉を私は持っていない。
それでも、何か言わなくては。



『…まろ「なーんてねっ!」

『は?』

「里穂先輩が優しいからちょっとからかっただけですよ!」

『な…っ』



マジか この女…!!



『何だよ!嘘かよ!真剣に聞いちゃったじゃねーか!』

「ふふ、でも里穂先輩が優しいなって思ったのはほんと!また色々相談しちゃうかも!」



初めてできた後輩(年上だけど)にこんなこと言われたら悪い気はしない。
さっきな深刻な雰囲気なんて何処かへ飛んで行った。



『まあね!先輩だからね!どんどん相談してくれていいよ!』



ふん、と胸をはるとクスクス笑われた。



『何?』

「いや…里穂先輩って、胸 無いですね!!」



殴る…!!!



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