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「へえ!それじゃリホっちの後輩なわけだー」

「いいっすねぇ、可愛い後輩。リホっちが男ならギャルゲーの主人公並に羨ましいっす」

『やめてくださいよー。絶対私なんて人選ミスですよ』



いつものように、ゆまっちさんと狩沢さんとの雑談。
後輩がついたと言うとこの反応だ。
肝心の後輩と言えば、



「そんなことないですよう、リホ先輩は超!便りになりますっ!」

「いいねえ、師弟関係!…ちょっとそのネタ頂いていい?」

『何のネタにするつもりですか!』



メモを取ろうとしてる狩沢さんを止めようとすると、カランカラン、と来店を知らせるベル。
お帰りなさいませ…といつものように出迎えようとドアを見る。
が、そこには何とも珍しい人が。



「あー!来た来た!ドタチーン!」

「こっちっすよ〜」

「そんな大声出さなくても分かる」



ドタチンさんだ。
ドタチンさんといえば、ストーカー事件の時お世話になった超頼りになるお兄さんである。
いつかお礼をしたいと思っていたが、こんな所で会うとは。

ドタチンさんは帽子を深く被り直して狩沢さんの隣に座った。



「私が呼んだの」

「久しぶりだな。神崎」

『はい、その節はお世話になりました』

「駄目っすよ〜。ここではリホっちって呼ばないと」

「ややこしいんだよ」

「先輩、この方は…?」



まろんが頭に?マークを浮かべて首を傾げた。

おお…この子 素でこんな仕草できちゃうのか。
私の横では写真を撮ろうとしている狩沢さんをドタチンさんが止めていた。



『狩沢さんとゆまっちさんのお友達。前に…お客さんとトラブった時に助けてもらったんだ』



結局はお客さんじゃなかったんだけどね。
まさか臨也さんの単なる嫌がらせで仕向けられて、死にかけたなんて言えないし。
狩沢さん達には結局警察にお世話になったって伝えていた。



「ストーカーがいたんだよね〜」

「えっ、リホ先輩にストーカー?」

『素直に驚きすぎだから』



どういう意味だ。
こいつマジで一回シメなきゃ駄目か?



「捕まって良かったっすねえ」

「渡草のバンが凹んだ甲斐あったな」

『ちょ、それは言わないでくださいよ!』



結局、学生に払わせるわけにはいかないって言ってくれて弁償せずに済んだ車のボンネット。
あれは本当に申し訳ないことをした…



「リホちゃん達〜!そろそろ外周り行ってくれる?」

『あ、はーい』



時計を見るとちょうど12時頃。
お昼時になると、いつも看板とティッシュを持って宣伝に行く。
平日は学校があるからあまり行くことはないが、外周りは基本新人の仕事だ。



「え〜、もう行っちゃうの〜?」

『すいません、ゆっくりしていってくださいね ご主人様』

「………なんか違和感っすね」

「…うん」

『や、本来ならこうあるべきなんですけどね』



最近フランクに喋り過ぎてるんだよなー。
ご主人様なんて常連さん相手にはあまり言わなくなっちゃった。絶対問題アリだわ。



「リホ先輩 早く〜」

『はいはい』



それじゃ と狩沢さん達に挨拶をして、看板とティッシュの籠を持ったまろんを追いかけて外へ。



『えーっと…今日は西口辺りか。私は看板持ってうろうろしてくるから、まろんは定位置でティッシュ配りね』

「は〜い!」



………返事は良いんだよなあ。










♂♀










『只今 ランチタイムサービス実施中でーす』



まろんと別れて、看板を持って宣伝。
実はこういうのはあまり得意じゃなかったりする。
元々 外周りが苦手だし、ましてや今はメイド服。おまけに場所は西口。
知り合いに会う確率大だ。
お願いだから何事も無く時間がきてくれ。というか私を見つけても無視してください。



『今なら無料で萌え萌えジャンケンを「あれ、里穂さん?」



ゲェエエエエエ!!!!



思わず持っていた看板を落とした。
目の前には間違いなく見たことのある高校生三人組。
三人の内の一人…帝人くんが呼んだ私の名前に残りの二人も反応した。



「でかした帝人!!里穂すわん!偶然っすね!つーかもう運命?デスティニー!?
…ってあれ、その格好…」

『見るな!』

「ぶげふっ!」



拾った看板で紀田少年の顔面を塞ぐ。
うぉおおお!最悪だ!一度この格好で会ったシズさんに会うならまだしも、この三人に会うなんて!



「…メイド服、ですね」



しみじみと見たままを言う杏里ちゃん。
こんな所で優等生ぶりを発揮しなくていいんだよ杏里ちゃん。
帝人くんは帝人くんで私を凝視していた。



『あん!?バイトだよ!なんか文句でもあんのか!!あんた達休日にまで三人揃いやがって!』

「ぷはっ!…文句なんて無いっすよ!つーか何でそんなにキレてるんすか!」

『この格好を見られることがどんなに恥ずかしいことか!』

「に、似合ってますよ!ね、園原さん!」

「はい。お似合いです」

『気を遣われた…』

「そんなつもりじゃ…!」



この二人にフォローされると申し訳ない感がハンパない。
優しい子達なんだけどね!今はちょっと黙ってようか!
とりあえず看板を肩に担いで、落ち着くために深呼吸。
早くこの場を切り抜けてまろんの所に戻ろう。



「いや本当可愛いっすよ!是非是非 奉仕して欲しいんですけど!」

「正臣が奉仕とか言うとなんか変な意味に聞こえる」

「お?何だよ帝人、お前どんな想像してんだ?ん?」

「な…!?…ち、違う!違うから園原さん!」

「…?」

『はいはい、奉仕して欲しかったら店に来てね』



この三人はいつもこんな感じなんだろうか。
どこまでもな 仲良しだなあ。帝人くんの空回りぶりも健全だ。



『で、紀田少年達は何してるの?』

「ナンパ!」

『……そんなこったろうと思ったけど。杏里ちゃん連れて?』

「題して"あれ?女の子いるし安全じゃね?私達も遊ぼうよ!"作戦!」

「今のところ誰も相手にしてくれないけどね」

『だろうよ』



杏里ちゃんは二人のやり取りに苦笑い。
可哀想に杏里ちゃん…帝人くんにとっちゃ休日に会えてラッキーだろうけど…
杏里ちゃんにしてみればただ意味不明なナンパに付き合わされてるだけだもんね。
……もしかしたら、ナンパなんて口実で二人を会わせるために紀田少年が…?



「里穂さんを想うと夜も眠れない!学校の授業すら頭に入らない!」

『それただ単にサボってるだけだろ』



やっぱり考え過ぎかもしれない。


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