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何でだ。何でこんなことになったんだ。

私はキッチンでお茶を淹れながら考えた。
あれからトムさんの承諾を得て帰宅したわけだが、道中ずっと無言だった。
何度月を見上げたことか。

ため息をついて、お盆にお茶をのせる。

…あ、そういえば冷蔵庫にバイトの差し入れで貰ったケーキがあったな。
二つしかないけど…仕方ない。なんてったって羽島幽平だもんな。

私は冷蔵庫を開けてショートケーキもトレイにのせて二人がいるリビングに向かう。



『…そ、粗茶ですが…』

「お前…紅茶とかねーのか。ケーキにお茶って」

『あるか そんなもん!私も飲んだことねぇよ!』

「……………」



クマの着ぐるみを脱いでソファーに座る羽島さん。
向かいには座布団を引いてシズさんが座っていた。
私もシズさんの隣に座る。



『……………』

「……………」

「……………」



何だこの空気。何で誰も何も言わないの。
っていうか、羽島さんが言ってた久しぶりってどういう意味だろう。
前に会ったことないとそんなこと言わないよね。
しかもシズさんも幽って呼んでたし…
…………わけわからん。



「……元気、してたか」



重い沈黙を破ったのはシズさん。

よし、それでいい。羽島さんは一生喋らなそうだった。
ほんと何なの この緊張感。



「うん。……兄さんも元気そうで…よかった」



そうそう、兄さんも…

………………

ん?



『兄さん!?』



思わず大声で叫んでしまった。

でもこれは当たり前のリアクションだと思う。
だってに、兄さんて…!



『兄さんって兄さん!?兄弟の!?』

「…言ってなかったの?」

「聞かれなかったからな」

『そんなもん誰が聞くんですか!兄弟って!もう一回言うわ 兄弟って…!』



嘘だろ!?羽島幽平がシズさんの弟!?
いやまぁ…似てるっちゃ似てる…か?



『あれ、でも羽島って…』

「羽島幽平は芸名だ。本名は平和島幽」

「よろしく」



そうか!芸名…!盲点だった!



『い、いえ!こちらこそ!シズさんにはいつもお世話になって…よ、よろしくお願いします!』



何卒…!と深々と礼をした。

それにしてもテレビとは違ってポーカーフェイスな人だな。
シズさんとも久しぶりの再会っぽいのに、にこりともしない。
……もしかして、私がいたら話難いのかも。



『私、部屋に戻りますね』

「あ?」

『べっ、勉強!勉強あるんで!』

「いつもしねぇくせに何言ってんだ」

『勉強は学生の本業だから!ね!羽島さん!』

「……うん?」

『それじゃ!』



なんとなく羽島さんが同意してくれなかった気がするがそんなことは無視だ。
私は逃げるように自分の部屋に戻った。



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