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『あっぶねー』



一瞬かなり動揺してしまった。
すんなり親戚が煙草吸ってるって言えないのはやっぱりそれが嘘だからだ。
先輩達にはお世話になってるし、嘘なんか付きたくないけど…
平和島静雄と住んでるなんて言ったら腰抜かすだろうなぁ。
それでなくても一回 店を荒らされてるわけだし。(第6話目参照)



『…うわ』



ゴミを出すために裏口のドアに手をかける。
と、そこにはこちらに向かって微笑む羽島幽平が。



『これさっき言ってた付録のポスター…こんなところに貼ったんかい』



もっと他の場所があったでしょうに。
羽島幽平もこんなところに貼られるとは夢にも思わないだろう。

そんなことを考えながら、私はドアノブを捻った。



『暗いなー』



電飾が多いといえど、路地裏は夜になると暗くてあまり見えない。
一応 前に襲われたこともあって少し警戒しながらゴミを定位置に置く。



ガサッ



『…!?』



私が置いたゴミ袋とは別の、何かが動いた音。
見ると、黒い人影が動いていた。



『…っ!』



息をのむ、とはまさにこのことだ。
シルエットの方も私に気付いたらしく、しばらくお互いに硬直していた。



「おい、見つかったか?」

「いやまだだ。路地に逃げ込んでるのかもしれない」

「よし、こっちを探してみるか」



表の通りからそんな男の声が聞こえてきた。影はその声を気にするようにもぞもぞ動く。
近付く足音。

…もしかして逃げてる?

なんだかただ事ではない気がして、私はその黒い人影の腕を掴んだ。



「…!」

『こっち!』










「……いないな」

「もうこの辺りにはいないかもしれないぞ」

『「…………」』



裏口の内側に耳を貼り付けて外の様子をうかがう。



「あっちを探してみるか」



一人の男がそう言うと、足音が遠ざかっていった。

…ふぅ…



『行ったか…』



思わず店に引き込んでしまった。
またやっちゃったよ…余計な事には首突っ込むなってシズさんに散々言われてるのに…



『すいません、なんか逃げてるみたいだったからつい…』



ドアから耳を離して、連れ込んでしまった人を改めて見た。
深く被った帽子に大きめのサングラス。襟が立ってるロングコート。
背丈からして男なのは間違いない。

………ヤバい。見るからに怪しい人と関わってしまった。
落ち着け里穂。いざとなったらロッカールームにいる先輩達を呼ぼう。



『よ、余計なことしちゃいましたよね…』

「………いや」



男は静かに否定して、帽子とサングラスを取りながら言った。



「助かった。……ありがとう」

『あ、いや、それなら良かっ……え?』



一般人離れした端正な顔立ち、見ただけで分かるサラサラな黒髪。
ある意味、見慣れた顔がそこにあった。
一瞬、頭が真っ白になる。



「……?」

『…………』



…あはは、まさかそんな訳ないって。あり得ないあり得ない。
こんな所にいるわけないもん 馬鹿か私は。

そう思いながらも、丁度ドアに貼ってある彼のポスターを見る。



『…クリソツ…』



ポスターのような微笑みは無いものの、それ以外は全くと言っていいほど似ていた。
てか似てるとかいう次元越えてるよコレ。
むしろ本人…



『…は、はははは羽島幽平…?』



ポスターと彼を指差しながら(失礼)交互に見ると、目の前の彼は少し首を傾げた。



「……どうも」

『…え、』



ええぇぇぇ?!!!?

叫びそうになった声をすんでのところで押さえた。
その代わり心の中では絶叫に近い叫びを上げる。



『嘘ォォオ!?ちょ、あの…嘘ォォオ!?』



何でェェェ!?何で羽島幽平がここに!?
あ、いや、連れ込んだのは私だけども!けども!



『どどどっ、』

「どどど?」

『どうしてこんな所に!』



有名人になんか会ったのは初めてで(もちろん“ある意味”有名な人は除いて)どうしたらいいのか分からない。
サイン!?とりあえずサインもらえばいいの!?
でも色紙なんて無いし!つーか書くものもねーし!



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