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親の顔見てみたいよ、本当。



私と彼と非日常 13






「ほんとにカッコいいわよねぇ…」



ほぅ…とため息混じりに言う先輩達は物憂げな顔で雑誌を見つめた。
バイト先のロッカールーム。
店は閉店時間を過ぎ、今日 シフトが入っていた人はロッカールームに集まっていた。



「普段買わないんだけど、ポスターが付いてたからつい買っちゃったのよねー」

「その気持ち分かる分かる!でもカッコいいから仕方ないって」

「また新しい映画するんですって」

「ねぇ里穂ちゃん、里穂ちゃんは好き?」

『え?』



先輩達の話を完璧にBGM化してた私はスカートのホックを止めながら聞き返す。



「やだ、聞いてなかったの?これよこれ!羽島幽平!」



ずい、と雑誌を近づけられて思わず後ずさった。

羽島幽平。
今大人気の若手俳優の写真がどーん!と載ったそれ。
見出しは“独占インタビュー!羽島幽平の全て!!”



『いやまぁ…普通に好きですよ』

「普通にって何よ〜!」



イケメンだと思う、本当に。それに演技だって上手だし。
何よりあのシズさんが彼が出ている番組を全部チェックしてるくらいだ。



『…?』



目の前で広げられた記事を見る。
そこには映画のワンシーンなのか、羽島幽平が眉間に皺を寄せている写真があった。

…この顔、なんかシズさんに似てるような…
……気のせいか。
最近イケメンを見慣れすぎて良くわからなくなってきた。
シズさんも顔は良いし、臨也さんに至っては眉目秀麗だし…新羅さんも整った顔をしている。
中身を除けばテレビに出ててもおかしくないのにな。中身を除けば。



「何言ったって無駄よ。この子ったらそういうのに全然興味無いんだから」



お局先輩がファンデーションを塗り直しながら言った。



『少しくらいはありますよ!今日だって女性○ブン立ち読みしてきました!』

「女性○ブン立ち読みする女子高生が何処にいるのよ」



主婦でも最近読まないわよ?と呆れられた。

マジでか?みんな読まないの?
あれ結構 便利なこと書いてるのに…



「あ、もしかして彼氏がいるとか?」

「女子高生だものねぇ、彼氏の一人や二人!」



先輩達はきゃっきゃっ!と自分の高校生時代を思い出しながら騒ぎ始めた。



『そんなのいませんって』

「うっそ〜!信じられない!」

「確かに里穂ちゃんって男の気配無いものねぇ」

「こう…何て言うか、生きるのに必死?みたいな?」

『必死に生きて何が悪いんすか!』

「あら、でも…」



ふと、お局先輩が思い付いたように私を見た。



「時々里穂ちゃんから煙草の匂いがするけど…」



ロッカールームにいた全員が同時に私を見た。



『なっ、なななな何言ってるんですか先輩!そんな…そんな訳ないじゃないっすか!』



ヤバい!多分シズさんの煙草の匂いだ!
なるべく室内で吸うのは避けてくれてるけど、やっぱり多少は付くみたいだ。



「まさか…里穂ちゃんが煙草?」

『いやいやいや!あのアレ…アレですよ!あのー…一緒に住んでる親戚がですね!吸ってるんでね!』

「なんだぁ。びっくりした」

「…………」



先輩達は納得してくれたらしく、さっきまで夢中だった雑誌を見た。
しかしお局先輩はじーっと私を見る。



『じゃ、じゃあ私ゴミ出して帰りますね!お、お疲れっしたァァア!!』



逃げるが勝ち!

私は根掘り葉掘り聞かれる前にゴミ袋を持ってロッカールームを出た。


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