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「そ、そんな…どうして私じゃ駄目なの…?」

「いや、駄目とかじゃなくて…あー、困ったな…」



帝光中学二年生、黄瀬涼太は困惑していた。
目の前の女子は目に涙を浮かべ、自分を見ている。彼女はバスケ部一軍のマネージャーだ。
そんな彼女に募る想いを告げられ、断りをいれればこの有様である。



「好きな人いるの?…あっ、もしかして桃井さん?」

「そうじゃなくて…」

「じゃあどうして私と付き合ってくれないの!?」



あー、駄目だこりゃ。黄瀬は内心深い溜め息をついた。
告白されるのは初めてではない。世間一般的のそれよりは多い方だと自負している。
正直それなりの女子であれば付き合っても構わないが、彼女は性格的にアウトだ。こういう女子にかぎって「私とバスケ、どっちが大事なの!」という馬鹿げたことを言いかねない。
答えは勿論バスケだし、今彼女に費やしている時間も言い方は悪いかもしれないが無駄だ。
少しでも多く練習しなければ、こうしてる間も他の一軍メンバーに差をつけられてしまう。



「そう言われても困るんスよね…オレは今バスケに夢中なんで」

「…じゃあ今度の試合の後からでもいいから、付き合って!」

「…………はぁ」



しまった。
と思った時には手遅れだった。
思わず出てしまった二度目の深い溜め息は確かに女子の耳に届いていた。
女子は大粒の涙を流し、黄瀬を睨む。



「もういいわよ!せっかくマネージャーになってあげたのに!」

「それ目当てでやられてても困るんスよ…オレ達も」



別に頼んでなんかいない。勝手に群がってくるのはそちらだ。
男目当てに適当にしてただけのくせに何言ってんだか。
黄瀬はその言葉を飲み込む。いつだったか…主将である赤司がマネージャーの質が落ちていると言っていた。
部員数から考えて減らすわけにはいかないから仕方ない…とも。



「…あのー、もしかしてマネジ辞めるとか言わないっスよね?」

「…続けたら付き合ってくれるの?」

「…いや、それはちょっと…」

「っ!…マネージャーなんて辞めてやるっ!!!」



捨て台詞を吐いて走り去っていく彼女を見ながら黄瀬は思った。

あ、これ超ヤバい。















「黄瀬、今月に入って何人目だ?」



部活終了後のミーティング。体育館の隅で一軍のスタメンとマネージャーである桃井が輪になっていた。
赤司は落胆する黄瀬を見、頭を抱える。



「ここまでハイペースで辞められては埒が明かない」

「オレのせいっスかぁ!?」

「きーちゃんのバカバカッ!せっかく新しいマネジが来たと思ったのに!」

「ヒステリー起こすなよ さつき。マネジくらいまだいんだろ。二軍から引き上げりゃいいじゃねぇか」

「適当に言うな青峰。一軍のマネジに相応しい奴でなければ意味ないのだよ」

「オレもまたフられてやめるような人は勘弁。女々し過ぎてうざいし〜」

「紫原君、体育館でまいう棒は食べてはいけません」

「うわ、黒ちんいたの?」



会話が一周したところで、黒子が紫原からまいう棒を取り上げようとした。紫原は長身を活かし、黒子の届かない高さへと腕を上げる。
「ズルいです」とむくれる黒子に桃井がウットリした。



「大体付き合えば良かったじゃねぇか。そしたらマネジ続けるっつったんだろ?」

「正気っスか!?」



青峰の発言に黄瀬は思わず自分の身体を抱き締めた。
そんな身売りみたいなこと出来るわけじゃないだろ!



「普段遊んでるくせによ…何だ?乳が無かったとか?」

「青峰くんサイテー!!」

「うるせぇブス」

「大体フってるのオレだけじゃないっスよね!?紫原っちだって!」

「え、オレ〜?だってめんどいし」

「…話を続けても構わないか?」



二人の間に赤司が割って入った。
このままだと話が収集つかなくなる。



「黄瀬、お前が悪いとは思っていないが…マネージャーの人員不足は深刻だ。このままでは桃井の負担が増すばかりだよ」



困ったように笑う桃井を見て、黒子と黄瀬には罪悪感が生まれた。
青峰は新刊の写真集思い出し、紫原はまいう棒の最後の一口を口に入れ、緑間はラッキーアイテムのパペットを弄っていたが。
まとまりがあるのはコートの中だけである。



「そこで、こちら側からスカウトするのはどうだ?」

「「「「「「スカウト??」」」」」」



赤司以外の六人は声を揃えた。
つまり、マネージャーをスタメン自身で選ぶということか。
シンプルだ。シンプルなだけに難しい。
しばらく考えてから桃井が口を開いた。



「みんなはどんなマネージャーがいいの?」

「乳がデカい奴」

「清潔な女子がいいのだよ」

「めんどくない子〜」

「精神面が強い女性がいいです」

「オレも黒子に同意だ。このメンバーについて行ける人がいい」

「い、いるかなあ…きーちゃんは?」

「え?オレ?そうっスねぇ…
とりあえず、オレに惚れないでいてくれたらそれていいっス!!」

「「「「「……………」」」」」

「ま、まあ、みんな頑張って見つけよ!」



こうして、帝光学園バスケ部 一軍のマネージャー探しは幕を上げたのである。


しかし、


思っていたより早く候補者が見つかる事など今の彼らは知る由もなかった。







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