蓼食う虫も好き好き



ガチャ


「花子っちー、テーピング無いっスか?」


みんなが体育館で練習中、私は部室で雑用をしていた。
ボールを磨いたり、掃除したり、青峰のロッカーにあったエロ本を飾り付けたりしていると、入って来た黄瀬。
とりあえずエロ本を大胆にもテーブルの上にセッティングした私は黄瀬の要望を聞いて、奥の救急箱を指差す。


『そこにあるけど、何?怪我?』

「指やっちゃったっス。多分ただの突き指っスけど、一応」


ありゃりゃ。
黄瀬はこれでもスタメンで欠かせない戦力だ(って赤司が前に言ってた)。
そんな黄瀬の怪我を悪化させるわけには行かないので、ベンチに座らせた。
救急箱から湿布とテーピングを取り出す。


『やってあげるから手出して』

「えっ!」

『…驚き過ぎだから』


テーピングくらい巻けるっつーの。
バスケのルールは相変わらず曖昧だが、それくらいは出来る。
雑用や力仕事ばかりで飽き飽きしてたところだしね。


「助かるっス」

『ん。きつかったら言ってよ』


男にしては綺麗な長いそれに、湿布を貼る。
ツーンとした刺激臭が部室に広がった。
…つーか、


『…何見てんのよ』


視線を感じる。すごく感じる。
顔を上げるとバチッと黄瀬と目が合った。
思ったより近い位置に、バレない程度に驚く。トキメキではないのでその辺りはご理解ください。


「いやー、花子っちってスゲーなって」

『前々から思ってたんだけど、その花子っちって何?』

「あ、オレ尊敬する人は○○っちって呼んでるんスよ」

『あんた私のこと尊敬してたの?!日常生活では全くこれっぽっちも尊敬の念を感じないんだけど』

「してるっスよー。だってこれだけ近い位置にいてもオレに靡かねぇし」

『……あ?』


ドスの効いた声で返す。
今すごくイタい発言が聞こえた。
いつかシメなきゃな とは思ってたけど今がその時ですよね。


「マジで、結構すごいことっスよ」

『あんたさ…世の中の女子がみんな あんたの顔を好きと思ってたら大間違いだからね…?
本当、今のまま大人になったら相当イタいよ…?もう手遅れかもしれないけどさ…』

「でもオレ、フられたことねぇし…」

『ファンの女子全員新手のマインドコントロールでもされてんじゃないの?』


イケメンなのは確かに認める。でもそれだけだ。
そりゃあバスケは上手いけど、私からしてみれば黒子やむっくんのが可愛い。
黒子も、もうちょっと存在感があればモテるのに。


「花子っち相当ハードル高いっスね」

『だからそれ!!その当たり前に出てくるイタい発言を直せっつってんのよ!!』


ツッコミを入れても「え?どの発言?」と言い出す始末。
怖い…もう腹立つのを通り越して怖い…助けてお母さん…


『じゃあ聞くけど、黄瀬は私のタイプはどんなだと思ってるわけ?』


福山○治とか言ったら殴ろう…と思いつつ聞いてみる。
黄瀬はしばらく考えて(考えないと出てこねーのかよ)口を開いた。


「ジョニー・○ップ?」


まさかのハリウッドスター?
え?…ちょ、え…?ジョニー…え?
色んな返しを考えていた私もさすがに言葉が出てこなかった。


『お前…もう、本当…ハリウッドに向かって土下座しろ。今すぐ』

「花子っちが聞いたんじゃないっスか!」

『いいから!謝れ!ほら!ついでに不快にさせた私にも謝ればいいわ!』

「いたたたた!頭押さえないで!オレ一応怪我人!!」


ガチャ


「黄瀬君大丈…何してるんですか?」










ギャーギャーと騒いでいると、黄瀬の様子を見に来た黒子に止められた。
でも何だか腹の虫が収まらない私は一発黄瀬を殴りました。
…だって、ねえ?



その後、黄瀬の好きな女子のタイプが「ソクバクしない子」だと聞いて

再び私の拳が黄瀬にヒットしたのはまた別の話…



(恐ろしい奴だわ、本当)








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