それはキセキのような

帝光中学校の強豪バスケ部のマネージャーになって数日。
マネージャー業にもようやく慣れてきた。

無駄にクソ早い朝練(7時集合とか拷問かよ)にも、
過激派ファンクラブの地味な嫌がらせ(初日から下駄箱に土入れられた)にも、
桃井ちゃんの黒子ラブ光線(めちゃくちゃ意外)にも、
緑間の「なのだよ」(ただの口癖だったのだよ)にも、

ようやく慣れてきたところ。
……正直慣れたくなかったけど。
それら全てが私の日常となりつつあった。


『あんた達ってさあ、バスケ以外に何かしようと思ったことなかったの?』


部活が終わり、いつも通り部室でスタメンと同じくマネジの桃井ちゃんとぐだくだ時間を潰していて ふと思った疑問。
各々好きなことをしていたメンバーはそれを聞いて全員 私を見た。
初めに口を開いたのは赤司だ。


「バスケ以外か…考えたことがないな」

『マジ?そもそも何で赤司はバスケやってんの?』

「小さい頃 母がくれた遊び道具がバスケットボールだった。その母も、もう亡くなってしまったが」

『…へ、へぇ』


重っ!!!え、赤司ってそんな理由でバスケしてたの?
軽い気持ちで聞いたのにすごい重い話になっちゃったじゃないの!


「もし母がくれたのがサッカーボールならオレは今頃サッカー部にいたかもしれないな」


ははは、と笑う赤司。
いや、正直笑っていいのかギリギリのラインよコレ。そしてとてつもなくサッカーが似合わねぇ。
正直、赤司空気読めよ…と思ったのは秘密です。


『ま、まあ赤司なら器用だし何でも出来そうよね!』


他のメンバーにも話を振ってみるもやっぱりみんな考えたことがないようで。
なんだなんだ、そんなにバスケ一筋だったの あんた達。


『世の中には他に楽しいことがいっぱいあるのよ?』

「花子っちにとって楽しいことって何なんスか?」

『そんなのいっぱいあるわよ。プリクラとかカラオケとかケーキ食べ放題ツアーとか…あとは…』

「くだらん」

『悪かったわね。女子中学生ってこんなもんよ 普通』


冬でもないのに手袋(恐らくラッキーアイテム)を持っている緑間を見て、またまたあることを思いついた。
あー、これ言ったら怒るかなー。でもなー…
……いいや、言っちゃえ。


『緑間ってバスケして無かったら音ゲーとか上手そうよね』

「「「音ゲー???」」」


桃井ちゃんと黒子とムッ君は声を揃えて首を傾げた。
ウワァアア!!可愛い!!もう一回!!


「何だ それは」

『太鼓の○人とか超上手いの。ギャラリーとか超いんの。もうね、神』

「ブフッ!ちょ、花子っち想像させないでくださいっス!…ブハッ!!」

「黄瀬笑い過ぎなのだよ」

「だって…!」

「太○の達人って何なんだ?」

「太鼓のリズムゲームです。ゲームセンターにあって…」


赤司の世間知らずに丁寧に説明してあげる黒子は本当に良い子です。
緑間は緑間で「何をするにしても人事を尽くすのみなのだよ」なんて言っている。否定はしねーのかよ。


『黄瀬はあれだね。もうただただチャラ男』

「ヒッデェ!」

「きーちゃんはモデルの仕事増やしてるんじゃない?」

「そうっスねぇ」


………は?


『待って桃井ちゃん。今聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど…モデル?』

「うん。きーちゃん、モデルだよ。ほら」


桃井ちゃんはさっきまで読んでいたファッション雑誌の見開きページを私に見せた。
そこにはドーン!と見たことのある金髪の顔が。


『エエエエエ!?!?うっそ!黄瀬!?あんたモデルしてたの!?』

「こんなの小遣い稼ぎっスよ。今はバスケのが楽しいし」


イケメンだとは思ってたけどモデルだったとは…
だから他校のファンも多いのね。
バスケも上手いわモデルもしてるわ…


『あんった…本当頭の先から足の先まで憎たらしいわね』

「花子っちってオレに当たり強くねぇ?」

「ねーねー花子ちん、オレは?オレは何してそう?」


私があげたルマ○ドを食べながら会話に入ってくるムッ君。


『ムッ君?ムッ君はねぇ…デブ』

「体型じゃん。つーかそれすごいヤダ」

『だってムッ君 超食べるじゃん?しかも疲れること嫌いじゃん?デブ真っしぐらじゃん?』

「花子ちん きらーい」

『あーウソウソ!あのあれ…むっくんはあれよ!…あのー…バレー…そう!その長身を活かしてバレー部とかどうよ!』

「うーん、悪くないかも」


ホッ。
機嫌の直ったムッ君に安心しつつ、次にムッ君の隣でバスケ雑誌を読んでいた黒子を見た。
黒子を発見出来るあたり、私も成長したな と思う。


『黒子はもう存在すら危うくなっちゃうわよね』

「どういう意味ですか?」

『誰もいない図書室から本のページが捲れる音だけがするの。帝光中学校の七不思議』

「黒ちんスゲー」

「…嬉しくありません」


普段無表情な黒子が少し ムッとした。
萌え…!!
…えーっと、最後は青峰ね。


『青峰はバスケして無かったら…』

「オレはバスケしかしねぇ」

「大…青峰くん?」


ずっと黙っていた青峰は指先でバスケットボールをクルクル回しながら言う。
無駄に器用だ。


「例えばの話っスよ?」

「例えばでも、オレはバスケしかしねーんだよ」

「…それもそうだな」


青峰の言葉に答えるように、赤司もふっと笑って言った。


「私も、みんながバスケしてる姿しか想像出来ないかも」

「ボクもです」

「…オレもっス」

「オレもー」

「…当たり前なのだよ」


笑い合うみんな。
あれ?何このアウェー感?
私が悪いの?


『…バスケかー』


そりゃそうよね。毎日あんなに練習してんだもん。
…例えばの話でもバスケは辞めたくないんだな。


『…私はそこまで夢中になれることって無いかも』

「夢中にさせてやるよ」

『…えっ?』


青峰は笑って続ける。


「バスケ。だからちゃんとついて来いよ 花子」


いつか、私もみんなみたいに。


『うん…!』


ちゃんとついて行くから、置いてけぼりにしないでよね。















「オイ花子!何バテてんだよ!」

『ゼェ…ハァ…ちょ、青峰…ちょっと休憩…』

「体力無さ過ぎだろお前。テツ以下じゃねぇか」


あれから2時間ぶっ続けでバスケさせられてる私。
何これ想像以上にしんどい!


「ほら!楽しくなって来ただろ?なっ?」

『…し、死ぬ…』


青峰よ、悪いことは言わない。
私を置いて先に行け…



(置いてけぼり、万歳)







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