喧嘩、のち喧嘩


『あー!違う違う!右だって右!…ちょ、逆逆逆!そっちじゃないってば!
あーもう!違うっつってんだろーが!そっち行ったらいつまで経ってもマサ○タウンに辿り着けねぇんだよ!』

「花子ちん うるせーし!」

『う、うるさい!?ムッ君が聞いてきたから教えてあげてるんじゃない!反抗期!?』

「…黒子、あいつらは何をしているのだよ?」

「ポケ○ンです。紫原君が最近ハマっているらしくて」



事の発端は10分前。
ムッ君がポ○モンに目覚めたらしく、部活前の時間に既に全クリしている私に色々聞いてきた。
ピ○チュウがどうだのジ○リーダーがどうだの、それはそれは可愛らしく聞いてきたので私も悪い気はしなかった。

が、しかし。



「花子ちんしつこい!鬱陶しい!もうオレ帰るー!」

『おーおー、帰れ帰れ!ムッ君なんか帰って一生マサ○タウンに辿り着けない人生送ればいい!』

「もう知んねーし!花子ちんなんて…花子ちんなんて…死ね!」



バタンッ



『し、死ね!?』

「行っちゃいましたね」

「あいつ帰って来ないつもりか?練習はどうするのだよ」



ムッ君は私に道順を教えて欲しいと言い、私はそれに答えてやった。それだけの事だ。
なのに何でうるさいやら鬱陶しいやら死ねやら言われにゃならんのよ。
私はさっきまでのムッ君との会話を、ぐるぐるぐるぐる頭の中で繰り返し考えた結果、



『私 悪くない』

「「………」」

『ね?!私悪くないよね?!』

「いや、さっきのお前は確かに鬱陶しかったのだよ」

『何でよ。私は教えてあげたのに、あっちが勝手に怒ってるだけでしょ?』

「紫原君は根に持つタイプなので、一ヶ月は口を聞いてもらえないかもしれません」

『い、一ヶ月!?』



黒子の発言に膝から崩れ落ちる。
え?そんなに?
普段面倒なことを嫌ってるくせに、ムッ君が一番めんどくさいじゃないのよ…!
これがキレる10代というやつ?!



『一ヶ月もムッ君と話せないの?私マジで死んじゃう!』

「謝ったらどうだ?」

『はあ?何で私が?悪いのはムッ君よ。冗談は下睫毛だけにしてよね」

「喧嘩売っているのか貴様」



ガチャ



「ちーっす」

「お疲れっス」

「みんな早いねー」

「?…紫原はどうした?」



青峰、黄瀬、桃井ちゃん、赤司の登場。
実はかくかくしかじかで、と黒子が説明する。
一通り聞いた四人は総じて呆れていた。



「もう謝れよ、花子」

『だーかーらー、私悪くないんだって』

「茶野さんが謝らないと仲直りは難しいと思います」

「私もテツくんの言う通りだと思う」

『な、何なの みんなして!私が悪いとでも!?』

「いや、そうは言ってないっスよ?」

「けど…なあ?」

「うん…」

『う、裏切り者共め!赤司は私の味方よね!?』



私は赤司を見る。が、赤司はとてつもない眼光で私を見ていた。
ヒィ!いつも二軍とか三軍を見てる時より鋭いじゃないのよ!恐っ!



「…茶野、最早これはどちらが悪いとかいう話ではない」

『え?』

「練習をサボるなんて言語道断だ。連れ戻してきてくれ」

『いや無理だって!私悪くないんだか「茶野」

『……ハイ』


赤司は普段温厚な分、怒ると何しでかすか分からない。ことバスケに関してはとびきり厳しいのだ。
もォ!!これもそれも全部ムッ君のせいなんだから!!



『はいはい分かりました!私が悪いわよ!!謝ればいいんでしょ?!これで気が済んだ?!キー!!帰ってやる!バカー!』



バタンッ!



「行っちゃいましたね」

「どんな帰り方っスか…」

「どうするのだよ 赤司」

「茶野も紫原も明日になれば忘れているだろう。今日の遅れは自主的に取り戻してもらうしかない」

「…赤司くんって何気に花子ちゃん達を馬鹿にしてるよね」

「無自覚ってとこが質が悪ィよな」

「桃井、青峰、何か言ったか?」

「「別に???」」














『うっしゃ あと一発!…とうっ!…イェーイ!アイアムウィナー!』



部活をサボり、憂さ晴らしにゲーセンで向かい同士の対戦が可能な格ゲーをやっている茶野花子 中二。
自分で言うのも何だけど全く違和感ナシ。女子としてどうなの?というツッコミはスルーしたいです。



『よしっ、もう一回!』



あーもうイライラする。大体ムッ君が今更あんなゲームにハマるから悪いのよ。
ポケ○ンって…中二でポケ○ンって!思わず私もしたくなっちゃったじゃないの!

そんなことを考えながら、相手キャラにそのイライラをぶつけタコ殴りにしていると、向かいの機械から試合を申し込まれた。
今の私に挑戦してくるなんて良い度胸してるじゃねぇかコノヤロー。
私は相手の顔を一目見ようと向かいを覗き込んだ。



『……なっ!』



激怒したムッ君 降臨。
チラリと私を見たムッ君はフフンと笑い画面に目を移す。
腹立つー!何だ今の笑い!そっちがその気なら受けてたってやろうじゃないの!
P1が私、P2がムッ君ね。
茶野花子の名にかけて、絶対勝ってやるわ…!











『……くっ!』



試合も後半に差し掛かり、お互いのHPも残りわずかになった。少しムッ君の方が優勢だ。
このままじゃ負ける!くそっ、コンボ技ばっかり出しやがって…
…あっ!やば!蹴り食らった…もう無理だ…私のHPはあと一ミリしか残っていない。
……でも、負けてたまるもんか…!!



『……ごめん、ムッ君』

「…花子ちん?」

『私が悪かったよ』

「花子ちん…」



ムッ君は手を止めて私を見た。



『だから、早く殺して!』

「何言ってんの?そんなこと…」

『だって私のHPはあと1なのよ!?蛇の生殺しじゃない!早く楽にしてよ!』

「…オレも悪かったよー」

『ムッ君…』

「死ねとか言ってごめんねー?」

『ううん!いいの!さあ、早くやって!』

「そんな…オレにはそんなこと…」



フフフフ…
よっしゃ!ひっかかっカチカチッ ポチッ



カンカンカン!



《Winner〜〜〜

Player 2!!》




『なぁああああっ!!』

「そんなので許すわけないし。オレ本気で怒ってんだかんねー」

『…この…っ!』














翌日。



『ムッ君〜』

「何ー?」

『ムッ君がこの間欲しいって言ってたゲームあったよね?』

「うん」

『じゃーん!』

「すげー、手に入ったんだ〜」

『部活終わったら私の家でやろ!徹夜するからお泊りセット持っておいで!』

「やったー、花子ちんママのご飯美味いし楽しみー」

『もう、褒めても何も出ないぞ!弟よ!』

「え〜?オレが兄貴でしょ どう考えても〜」










「…仲直りしてんじゃねーか」

「赤司くんの予想大当たりだね」

「付き合ってられないのだよ」

「つーかいつの間にあんな仲良くなってんスか!黒子っち、オレ達も二人で「嫌です」

「ゲーム、とはそんなに楽しいものなのか。今度オレもしてみよう」

「あ、赤司くんには向いてないかも…」





この後、
ムッ君とゲームキャラの取り合いでまた取っ組み合いの喧嘩をしたなんて口が裂けても言えません。




(まあ楽しければいっか)







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