小説 | ナノ


▼ 10.5(夢主父独白、読まなくても無問題)

親愛なる ダリア=クラウス



お前がこれを読んでいるということは、恐らく私はもう生きてはいないだろう。
ステラには もしお前が訓練兵を志願し、卒団したら渡せと伝えてある。私が望んだ時期であるならば、幸いだ。

いいか ダリア、先に言っておく。この手紙を読んだらすぐに燃やせ。決して捨てるな。跡形もなく消せ。
理由は後々分かるだろう。


さて、まずは祝いの言葉を書かせてくれ。
ダリア、訓練兵卒団おめでとう。どんな成績だろうと、お前は私の誇りだ。
今更 父親面をするなと思うか?

────ああ、その通りだ。私はお前の成長を身近には感じていないのだから。
此処にいる、今はまだ小さいお前が15歳になった姿を想像するしか出来ない私を。
家族と過ごすよりも兵士として生きている私を…さぞ憎んでいるだろう。
しかし、私は赦しを請うつもりはない。私は私の信じる道を選ぶ。
後悔などはしない。今までも、そしてこれからもだ。


───ダリア、不思議に思ったことはないか。
訓練兵は成績優秀者上位に選ばれれば、憲兵として内地への切符が得られる。
それはこうして兵士として働いていても同じだ。力がある奴程、内へ篭る。そういう風に創られた世界が、自由への道を閉ざしている。


ではこの世界の規律を作ったのは誰か?


────王政だ。
「人類に心臓捧げよ」
我々はこの言葉を口にし、戦ってはいるがそれでさえも王政が掲げたものに過ぎない。
誰もが言う…考え過ぎだと。王政が実力のある者に内地を推薦するのは士気を上げるためだと。


本当にそうか?
王政は自由を求め、巨人を倒せと命じているが依然 主力である我が兵団には消極的だ。


私はその矛盾の答えを、ある仮説を元に記す。
他言はするな。母であるステラも同様だ。初めにいったように、この手紙を一度読んだら燃やせ。



我々が護ってきた人類…否、王政は ──────










────以上が、私が兵士になって辿り着いた答えである。
お前が先、この仮説を忘れ生きていくも、信じるも自由だ。私の意志を受け継げとは思わない。ただの馬鹿な兵士の戯言だと思ってくれて構わない。

これは私の我儘だ。今まで内に秘めていたことを、ここに記すことに意味があった。
これは確かに私という一個人が''存在した''という証である。



────ダリア、どの兵団に進むかは自由だ。巨人以外にお前の自由を邪魔する者など、いないのだ。



肝に銘じよ。



お前が頼るべきは身に付けた生きる術と戦友達への信頼である。


信仰が裏切られ、豚共に蔑まれ、泥寧にまみれたとしても、


それらがお前を裏切ることはない。



最後になったが、ダリア。
私はお前を愛している。勿論ステラのこともだ。



彼女の腕の中で眠る、赤ん坊のお前が私の手を握る温かさを、私は忘れたことがない。
仮初めの安寧の中、人生で一番幸せだと感じた、あの瞬間を。
もう死んでも悔いはない。そう思った。思わせてくれたのはお前達だ。



心臓を捧げよう。
他でもない、お前達に。





お前がこの先、そう思える人間に出会えることを心から祈っている。




ロベルト=クラウス




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