街灯が点いた商店街の通りの花壇の煉瓦の上をヒロトは器用な猫のようにとてとてと歩いていく。
その横で一段下を緑川が歩いていく。
商店街はまだ人通りが多く忙しなく買い物袋を持ち帰路へと着く主婦や仕事帰りのサラリーマンであふれている。



「監督許してくれて良かったね」


「半ばごり押しと久遠のおかげだったけどな」


「後でお礼言っとかないとね」



昼、ヒロトは思いついたように突然緑川に、星を見に行こうと言い出した。
当然明日だって自分達は練習があるのだから緑川は断ろうとしたが、ヒロトがどうしてもと懇願するので渋々二人で監督に外出届けを貰うため頭を下げ、今にいたる。
普通ならこの時間は自分は好きなバラエティー番組を見て部屋でくつろいでいるはずだ、と緑川は小さくため息をつくが、元凶を作った本人は普段めったに見れないほどの上機嫌で、そんな恋人の表情を見ていればいやみの一つでも言ってやろうかという考えは自然と失せていた。
商店街を抜け花壇の煉瓦が途切れるとヒロトは、すとんと少し大袈裟にジャンプしてコンクリートへ着地する。




「ほら、緑川早く!」


「はいはい」



ヒロトは早めの歩調で歩き、緑川を急かすように半ば強引に手を引く。
緑川は苦笑いをし、ヒロトに歩調を合わせヒロトの横を歩く。




少し歩いて着いた河原は商店街や道路とは全く異なり、灯り一つ点いておらず、星と月明かりでかろうじて周りが確認できる位であった。
しかし先ほどの商店街とは全く異なり、星は夜空いっぱいに輝いて、その一つ一つが自分を見ろと言わんばかりに自身の身体を燃やしている。



「うわ」


「すごいな、意外と見えるもんだね」


「見えること前提で来たんじゃないのか」


「夜ここに来たことないからね」


「ったく」



緑川は呆れて肩をすくめるが、すぐに表情を変え、ヒロトの頭をポンポンと優しく叩き、夜空を見上げる。
その緑川の動作にヒロトは、ハッと何かに気づき、つま先立ちをして、片手で緑川の頭と自分の頭の位置を確認する。
緑川は不思議そうな表情を浮かべ首を傾げる。ヒロトはそれでもなお、つま先でふらふらとバランスを取りながら緑川の身長に自分の身長を合わせている。



「どうしたんだ?」


「緑川待て」


「俺は犬か」


「うーん…、あ、そうだ」



ヒロトは緑川を制止しつつ考えるような仕草をする。
何かを思いついたのか顔をあげ、緑川の顔を見つめる。



「だからどうしって、ちょ、うわっ」



ヒロトは緑川に抱きつくような体制で緑川に飛びつく。ふいに訪れた衝撃を緑川は受け止めきれずバランスを崩す。そのまま二人は土手を転げ落ちる。二人の視界はグルグルと反転し、回り続ける。
緑川は何度か背中を石にぶつけ、痛みに顔を歪めたが、ヒロトは猫のように受け身がうまいのか、はたまた緑川を盾としたのか下まで転がると飄々とした表情で起き上がった。



「〜っ、ヒロト危ないだろ!」


「よし、これでいいや」



ヒロトは満足げな笑みで一人、うんうんとうなずき納得したような表情を浮かべる。
緑川にとってはそれは疑問にしかならず、不機嫌に眉を潜ます。



「何がだ、というかお前はさっきから人の話を聞くってことを実行しろ」


「ほらほら、緑川、腕横に伸ばして」


「?…こうか?」


「そうそう」



緑川が言われるがままに自分の腕を寝転んだまま横に出すと、ヒロトがその上に平然と頭を乗せる。体を横たえて、少し曲げて緑川の方へと体を向けると、嬉しそうに、緑川に体を寄せる。



「って、お前の枕代わりか」


「ずっと上見てるの疲れちゃうでしょ、それに…」


「それに?」


「なんでもない」


「なんだよ、気になるだろ」


「…緑川、俺より背高いだろ、」



緑川が少しキツめに問いただせばヒロトは渋々と言った感じで、口を開く、少し恥ずかしいのかヒロトは顔をふいっと背け、緑川から目を逸らす。鼻にかかっていたサラサラとしたヒロトの前髪がはらりと流れ、石に落ちる。



「だから?」


「緑川と、同じ目線で…星見たかったから…」


「……」


「俺が本戦に行ってる間も浮気しないでね」



ヒロトは寂しげな表情ですり寄り、緑川のジャージの裾をギュッと掴む。
そんなヒロトをみて緑川は優しい笑みを浮かべそっとヒロトの頭を撫でる。



「嫌みか?ヒロトこそ気をつけろよ」


「え、俺?俺は大丈夫だよ、」


「…まぁいいか、」



緑川は疲れたような笑みを浮かべたがヒロトはその原因が分からず疑問符を浮かべる。そんなどこか鈍いヒロトに対して緑川がついたため息は夜空と大気に混じって消えた。






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