暖かく柔らかく差し込む日差しに包まれながら遠くで聞こえる声を朧気に聞いていたつもりだったのだけどいつのまにか意識は暗転していて気が付いた時には全てが手遅れだった。なんちゃって。

「...ねーよ」
「どうした」
「せっかく教室来たのに寝てた」
「馬鹿だろ」

そう言いながらさっきの授業のノートを突き出して来る慎に流石だ愛してるぜって言いながら抱きついたら殴られた。痛かった。

「またいちゃいちゃしやがっていいぞもっとやれ」
「琴音さん冗談キツイですー」

腐女子琴音さんのひやかしは華麗にスルーするに限る。相手なんてしていたらロクな事がない。まあ腐男子の俺が言う事じゃないとは思うが。

「つか何でいちゃいちゃしてたのよー」
「いちゃいちゃなんかしてねえよしつけえよ」
「俺がさーこの俺がさー久々に教室来たのに寝てた」
「うっわさっくん馬鹿ー」

きゃらきゃらと笑う琴音さんをジト目で見据えつつ慎に借りたノートをさらさらと写していく。さらさらと(ここ重要)。

「つか琴音さんいつまで居んだよ」
「何よ居ちゃ悪いの?」
「いや慎どっか行ったし俺がノート写してるの見てても面白くねーだろ」
「朔って字綺麗よねむかつく」
「んな事言われても」

五限が終わった後の休み時間なんて十分しかないのにそこそこ席が近い訳でもない琴音さんは戻らずに飽きる事なく俺のノートを見続ける。戻れよ。俺は関係ねーからどうでもいいですけど。でもそんなに見詰めないでいやんなんつって。

「不良なのにノート綺麗むかつく」
「だから」
「顔だけはいいのに性格最悪」
「おい琴音」
「腐女子的には凄く美味しい受けキャラだよね」
「自分の事じゃなければ同意するが」

そこからはひたすら萌えを語られた。最終的には俺と慎が付き合えばいいとか言い出して居た堪れなかった。まあ俺がっていうより慎が。可哀想に慎、不憫な慎。そして散々語った挙句に自分の席に戻って行った琴音さんは騒がしい。

「...ふう」

やっと一人になったと思えばすぐにチャイムが鳴り響いて教師が入ってくる。騒がしかった教室は授業が始まった途端に静かになる事はない。そういうクラスだから。それでも五限と違って意識を保った六限は、
居心地が悪かった。



「さくー」

放課後ずるずると慎に引きずられて委員会の仕事を手伝わされていた所にマイエンジェル悠希が来た。当然思いっきり立ち上がって悠希を抱きしめる。持っていた書類はバサバサと音を立てて床に落ちた。慎ごめん。

「朔お前ぶっ飛ばすぞ...」
「悠希俺の悠希」
「朔どうしたのー」

何か言ってる慎はシカトしておくとして悠希が俺に合わせてぎゅーってしてくるのがすげえ可愛い本当癒されるマイエンジェルまじマイエンジェル。

「朔さんは今日五限と六限教室に居たから疲れてんだって何このクソみたいな理由羨ましいわボケ」
「慎煩い悠希癒せ」
「え、教室居たの朔やば明日雨降るんじゃねむしろ槍降るんじゃ」
「悠希俺泣く」
「ごめん嘘冗談」

悠希の肩に顔を埋めて泣いたフリ。ふと肩越しに教室の扉を見れば口元押さえて震えてる腐女子発見。何か言ってやろうとは思ったもののそんな気力すら今の俺にはなかったらしく本当に何も言葉が出なかった。

「あ、琴音」
「委員長に見つかるとは不覚だわ」
「どういう意味だよ」
「朔死んでるね、六限も出てたの?弱った不良凄く美味しいね」

...そんなことを言われてしまえば無言で起き上がるしかないだろう。琴音さんの緩みきった頬を思いっきりつねってやろうかと思った。しないけど。

「六限出てました琴音さん黙れ」
「えー、朔すっごいじゃんよく頑張ったよね」
「まあ朔にしては頑張ったほうなんじゃねーの」
「朔ー癒すから抱きしめていいですかー」

とりあえず慎にはきもいと言って蹴りとばす。悠希には抱きしめて貰う。琴音さんはシカト。つか授業ニコマ出ただけでこんな褒められるとかお安いぜ不良はお得だな。別に褒めていただいても嬉しかねーけど。

「帰りアイス奢ったげるよご褒美に」
「俺甘いもん嫌いだから奢ってくれるならファーストフードとかにして」
「じゃあ帰り寄ってくか」
「まじー?俺腹減ったからがっつり食べちゃおうかなー」
「悠希くんこんな時間にがっつり食べたら夕飯入らないよ」
「大丈夫ーだと思いたい」
「大丈夫じゃねーだろやめとけ櫻井」

俺は疲れてるってのに慎も悠希も琴音さんも自重せずに騒ぐから殴りたくなる。実際には慎だけ殴った。すっげー怒鳴られたけどそこは慣れで上手く躱して。ストレスは発散するに限るな、なんて思いながら痛いくらいに照りつける太陽を睨んでみたけど潰れたのは俺の目だった。







軽くなった気分で町内闊歩






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