『何でお前妹なんだよ』

その言葉は明確な力で私を抉った。準也さんは従兄だった。母の死後、既に父も亡くしていた私を叔父さんと叔母さんが引き取ってくれた時、私は戸籍上叔父さんと叔母さんの娘になった。つまり、私と準也さんは兄妹になった。大学受験期で苛々しているものと思って準也さんの冷たさにも耐えていたのだけれど。準也さんは私の事が好きだった、らしい。それだけ。回想終了。


私は今公園に居る。一人で、ではなくクラスの男の子二人と。

「そいつ馬鹿じゃねーの」

碓氷さんはゲームの画面から目を離さないまま言った。

「お前...馬鹿って...俺たち今淡く儚く散った恋物語聞いてたんじゃねーのか?お前だったら何それ萌えるー、とか言いそうなもんなのに」
「淡く儚くだってクッセ」
「うっせ」
「つーか萌えるのはあくまで二次元であって三次元なんざくそくらえだ」

テンポ良く進んでいく二人の会話は聞いていてとても楽しい。私は口数が多い方ではないし、どちらかと言えば大人しい子、と言われるタイプなので尚更羨ましいのかもしれない。

「だってお前さ、結婚が恋愛の全てかって聞かれたら違うだろ?兄妹で結婚出来なくても恋愛は出来る。世間体とかは別としてな。なのに最初からキツく当たって好意も見せず、戸籍上妹になっちまった不満を神楽さんにぶつけるのってただの八つ当たりじゃないですか。そんなんじゃ出来る恋愛も出来ねーわ。じゃあ慎が好きな俺はどうしたらいいんですか」
「は」
「嘘、冗談。慎より断然悠希が好き」
「いやそれはそれで結局男同士じゃねーか」
「だから結婚なんざ全然重要じゃねーだろっつー話だよ分かれバァカ」
「いやそこは分かったけどよ、一応倫理観というものが人間にはありまして」
「んなもん知るか」
「朔はそれでいいかもしんねーけど!一般人の俺らには結構重要なんですコレが」
「んなことグダグダ言ってるくらいなら同性も身内も好きになんじゃねえさっさと諦めろ。勿論当然八つ当たりもすんな。それだけの話だっつの」
「...私、碓氷さんのそういうとこ、好きだな」
「えっ」

ずっと聞いているだけだった私がそれを口にした途端、二人の視線が私に集まった。碓氷さんなんて今までずっと、一回も、ゲームの画面から視線逸らさなかったのに。

「えっ...と、碓氷さんの、そういうはっきりしてる所。私、好き」

なんだか二人が過剰反応するから凄く恥ずかしい事言ってる気分になってきた。

「じゃあ俺は神楽さんの可愛いとこが好きです」
「えっ」

碓氷さんの綺麗な顔で言われるとドキドキするからやめてください。とは言えずに私はただ声を漏らして顔を赤くする。

「お前そういう事サラっと言うんじゃねーよ...」
「何でだよ。慎のツッコミ激しい所が好きです。らびゅー。」
「真顔で言うなキモ」
「くないです俺イケメンだから」
「うわ」
「冗談」
「...お前と話してると疲れる」
「お疲れさん」

碓氷さんはもうゲームの画面に視線を戻していて、相模くんをあしらっている。あしらってるんだけど、二人の仲の良さが伝わってきてなんだかこういうのっていいなあって思った。

「結局さ、実際のとこ神楽さんはそのお兄さん好きなの」
「え...」

碓氷さんはまたさっきとは違う鋭い目で私を射抜いた。

「...まあ、朔、そこはいいじゃん」
「よくねーよ。結局はそこだろ。神楽さんがそいつの事好きなら一応両想いじゃん。俺はそいつの事聞く限り短絡的思考のネ馬鹿としか思えねえけど」
「おい」

やっぱり碓氷さんの言葉は冷たく聞こえる。それでもこれは碓氷さんの優しさなんだって分かるくらいには、私は彼の事を知ってしまった。

「えっと...正直、分かんないよ。怒らせないように、苛々させないように、ってそればっかりだったし...」
「うん」
「一応、考えては居るんだけど、」
「うん」
「やっぱり、分かんなくて、」
「うん」

一つずつ頷いてくれる碓氷さんの声に安心した。

「いいと思うけど。そんなん相手がそいつじゃなくてもすぐ答え出る事じゃねーだろ」
「それもそうだな」
「神楽さんがどっちを選ぼうと俺はそれが正解なんだと思う」
「うん、神楽は自分の気持ちに正直に答え出せばいいんだよ、俺らはちゃんと味方だからさ」
「...うん」

碓氷さんはゲームの電源を切って空を見上げた。そのまま伸びをして続け様に欠伸。本当に猫みたいな人だなって思った。

「あーあ、恋愛とか無縁ですね」
「そーだな、お前顔はいいけど性格がな。素行問題児だし」
「黙れ眼鏡ガリ勉」
「でも碓氷さんって素行問題児とは思えないくらいしっかりしてるよね」
「してねえしてねえ。合理主義なだけだってこいつは」
「相当俺の性格が悪いみたいに言ってさー。自分はガリ勉してんのにいつも俺に試験順位勝てない当てつけですか」
「ちっげーよそれはそれで腹立つけどちっげーよ」
「はっはっは」
「だから真顔やめろって」
「...あ」
「神楽どうした?」

相模くんが思わず声を漏らした私の方を向いて促してくれる。

「あ、うん。なんか...準也さんが私を好きなのって勘違いなんじゃないかなあ...とか」
「なんとなく妹みたいに好きだったのが本当に妹になっちゃったから手に入らないモノねだりの勘違いってか」
「...やっぱ有り得ないかな」
「いやー、そんなことはないと思う。まあ実際のとこは知らねえけど」
「何だそのオチ...くだんねーな」
「相模さんそういう事言わない」
「朔に相模さんとか言われると鳥肌立つ」
「きゃー。あれだな、いうなれば」





それはの真似事








「むしろよく神楽さんはそんな話を俺らにしたよなーと」
「えっ」
「それはちょっと思ってたわ、恋愛系の話なら俺らより霧島とかさ」
「琴音さんなー、あんまり勧めないけど親身にはなってくれると思うぜ」
「えっと…琴音ちゃんに話そうとも思ったんだけど…」
「けど?」
「な…んか…恥ずかしくて…」
「…」
「えー…と、琴音さんに相談しなくて正解だった…かな」
「えっ、どうして…?」
(そんな照れた顔見て琴音さんが黙ってる訳ねえだろ)















▼シリーズ掲載につき少々加筆修正しております。



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