こんにちは。相模慎です。読みは、さがみ、まことです。とか言ってまあそれはいいんだが、俺は何でこんな事をしてるんだ。何で俺がこんな事をしなきゃならないのか。あの馬鹿の為に俺が動かなきゃならないのは全く持って腹が立つ。ただあいつは仕事が出来るのは事実。ちょっと説得する負担さえ被れば仕事は多少、否、悔しいがかなり楽が出来るという寸法。え、馬鹿なあいつってのが誰かと、ああ説明不足申し訳ねえ。あの馬鹿――碓氷朔の単位取得の為に俺は今奔走している訳だ。


「はい、俺が噂のうすいさくです」
「何だよいきなり」
「え、そういう流れじゃねえのかよ」

読心術紛いの事するんじゃねえよ、と内心ツッコミつつ口に出すと話が進まないので閉口。どうにもコイツに口で勝てた試しがない。苦手、だ。

「で、何か用ですか。俺と一緒に居たらいくら好成績でガリ勉眼鏡委員長の慎くんでも先生に目付けられちゃいますよ」
「バーカもう手遅れだっつの俺とお前が幼馴染とか割れてんだよ」
「みんな情報はえーなミーハーお疲れさん。こんなガリ勉眼鏡ストーカーして何が楽しいんだか」
「いい加減黙れよ、な?」

危ねえ危ねえ、またコイツのペースに巻き込まれるとこだった。

「もう巻き込まれてんだろ」
「だから黙れください」

全くこれだから問題児の幼馴染を持つと苦労する。まあコイツは話してると問題児って感じしねえけど。いや不良じゃなくて何かな、普通に変わり者なんだよな。つまり変人。問題児って言われる所以はコイツの場合単純に見た目だし。
染髪ピアスに派手に着崩した制服。まあ後は生徒らしからぬ言動と行動、つまり教師やら先輩に敬語使わないとか、サボり癖とか喧嘩とか。あれ、言ってたら普通にただの不良問題児にしか思えなくなってきた。いやでも中身はしっかりして、いやしてねえな。ただ自分の芯って奴は、持ってるんだと思う。

「で、何か用かよ」

俺は朔のその一言で我に返った。おっとうっかりしてたぜ...。

「この書類仕事をだな」
「手伝えと」
「いや一人で頼む」
「そりゃまあ...随分な信頼だな」

朔はそう言いながら自嘲的な笑みを浮かべる。あ、その顔はあんま好きじゃねえな。いや別にコイツの事なんざ好きでもなんでもねえけど。

「そうすりゃ単位ちょっとくれるってよ」
「ふーん、まあ進級出来なくても困りますからね」
「そう思ってんならもうちょっと授業出ろよ...」
「俺みたいな奴が教室に居ると空気悪くなんだよ」
「何だそれそんなんお前が気にする事じゃねえだろ」
「つーかその空気を俺が嫌なだけです」
「そうかもしんねーけどさ」

なんかそういうのって違うだろ、そう言おうと思った。でも何が違うのか俺には説明出来ない。

「かもじゃなくてそうなんです。俺が好き勝手してる結果だからな。自業自得って奴」
「でもお前見た目程悪い奴って訳じゃ」
「あ?不良なのには過去にそれなりの理由があって実は優しいいい人なんだぜ、とか馬鹿馬鹿しいレッテルに俺を当て嵌めるつもりじゃねえだろうな慎」
「え、いや...」

地雷でも踏んだらしい。朔はあからさまに機嫌が悪いです、みてえなオーラを出しながら俺を睨んだ。コイツ元々目付き悪いからこう睨まれるとなかなか怖くはなくともなんというか。

「俺が好き勝手するのに大きな大事な理由なんざねえし全然優しくもいい人でもねえ。勘違いすんじゃねーぞ」

言い終われば直ぐにいつもの朔。まあ確かにコイツの家庭に何か問題がある訳でもないし単純に価値観がどうとか言う話なんだろうけど。
いやしかし俺より格段頭脳明晰な変わり者の考えなんざ俺には分からねえって事で。

「あー、まあとりあえずその書類頼んだからな」
「はいはい、使われて差し上げますよ委員長サマ」
「もっと快く引き受けられねえのかよ」
「いやいや軽く脅し紛いの方法で仕事させられてるから俺」
「お前の単位足りるように奔走してやってるのを脅しっつったなお前本当カスだな」
「べっつに?頼んでませんし?」
「うっわ可愛くねえ奴」
「可愛くても嬉しかねーよ」

そのまま他愛もない会話を続けてまた別れて。かれこれ十数年の付き合いとはいえ大して俺達の関係は変わらない。これからも変わらないんだろう。つーか変わってたまるか。
結局俺とアイツの関係なんざ友達ですらねえ、ただの幼馴染。しかも別に仲がいいわけでもない。その程度だ。






別にそれ以上は望まない












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