久々に来た教室はどこか別世界のようだった。扉を開いた瞬間一斉にこちらを向く沢山の目も、その鋭さも、慣れてしまっているけれど普通に考えれば異常なものだと思う。どうでもいいが。その全てに気付かない振り(シカト、無視、などとも言う)をして、自分の席に鞄を置いて座る。「うわ、あの態度やっべー...」「まじ怖いよな」「空気悪くなっから教室来んなよ」そんな会話も、聞こえてっけどなー、なんて思いながら聞き流す。慣れってのはなかなかに怖いもんだと思う。最早何とも思わなくなった陰口も“普通”は耐えられるもんじゃない筈だ。
授業中にいきなり入って来て何も言わない俺に対して、教師は少なからず戸惑っていたようだが結局何も言わずに授業を再開した。最近の教師は生徒を叱る事も出来ないらしい。既に解ける問題をいつまでも解説している教師の声をBGMに机に寝そべってみたらぐしゃぐしゃに丸めた紙が飛んできた。痛い。

『遅刻ざまあwwwwwwww┌(┌^o^)┐』

割と綺麗めな字でそう書いてあった。誰が投げたかは分かるというか普通に消去法で一人しか居ない訳だが。投げてきた本人を見やれば目があって全力のドヤ顔をされた。うざい。

『┌(┌^o^)┐←きも
 授業受けなくても分かるから( ・´ー・`)』

そう書いて投げ返した。勿論頭に当てた。こっちを恨めしそうに見てきたからざまあみやがれって表情をしてやった。

『┌(┌^o^)┐←可愛いでしょ?
 テストで0点取って呼び出されろ^^』
『┌(┌^o^)┐←爬虫類か
 ありえねえわーお前とは頭の出来が違うから(^-^)』
『┌(┌^o^)┐←ホモだよ!!!!美味しいね!!!!!
 さっくんうざすぎ本当むかつくんですけど(^-^)』
『どんなホモだよwww四つん這いの図か
 ( ゚∀ ゚)<何で奏斗先輩の妹なのに馬鹿なんですかね』
『四つん這いで挿入されてるんだよきっとやめてよえろいこと言わないで
 うっざwwwwww別に奏斗頭よくないから!!!』

チャイムが鳴って授業が終わったのは分かったけど投げ合いは終わらなかった。いつまでやるんだ。さっきから正直大分クラスメイトの視線が痛い。これは俺が教室に入って来たときのとは違う、アレだ。何お前ら小学生みたいな事やってるんだっていう目だ。

『お前が言ってんだろ( 」´0`)」
 じゃあ榛稀さんと湊さんの妹なのに〜か』
『朔が言わせるんでしょバカバカ(>_<)
 それを言われると頭痛い(´・ω・`)』
『俺は四つん這いの図か、としか┌(┌^o^)┐<イイネェソコソコォ
 教えてもらえば?』
『┌(┌^o^)┐<ホモガタリネェ
 榛兄は忙しいし湊兄には絶対教えてもらいたくないから』
『┌(┌^o^)┐<ホモドコー?
 何そのプライド。俺が教えてやろうか( ・´ー・`)』
『┌(┌^o^)┐<相模か櫻井と付き合ってよ
 絶対いりません!!!!!!!!湊兄意地悪だからやなのー』
『┌(┌^o^)┐<おかしい
 遠慮すんな( ・´ー・`)わかりやすく( ・´ー・`)丁寧に( ・´ー・`)教えてやるから( ・´ー・`)』
『┌(┌^o^)┐<リアルホモイェア
 ちょwwwwwうざすぎwwwwwwやめてよwwwwwwwww』
『┌(┌^o^)┐<俺は二次元がいいです
 ( ・´ー・`)これ可愛いだろ?』
『┌(┌^o^)┐<ホモは二次元も三次元も美味しいのよ
 どこが目か分からなくなるよ』
『┌(┌^o^)┐<俺は二次元がいいんだよってかこの顏文字いつまでやんの
 ちょお待てwwwww目wwwww( ・´ー・`)wwwwwwwくそwwwwwwwwwwwwww』
『┌(┌^o^)┐<やめどき失っちゃったね
 やばいwwwww自分で言ってなんだけどwwwwwwやばwwwwwwww』
『┌(┌^o^)┐<もうやめようぜ
 ( ・´ー・`)wwwwwww琴音のせいだwwwwwwwwくそwwwwwwがwwwwwwああwwwwwwwww』

.
.
.

もう字が書けなかった。震えて。腹筋が捩れてると本気で思った。必死で堪えてはいるものの多分笑い声は口から漏れていて、それは相手も同じ事。二人して机に突っ伏して震えていた。いつの間にか二限だった授業は四限になっていた。

「おーい、碓氷と霧島何笑ってんだ」
「笑ってないです」

バッと顔を上げて無表情を作ってみた。そうしたら琴音さんと目が合って思いっきり吹き出した。琴音さん許さない。

「碓氷さんが悪いんです私を笑わせてくるんです」
「ざけんなお前が変な事言うからだろうが」
「だってさっくんがあんな顏文字」
「お前の見方が悪いんだよぼけ」

なんて口論というかただの口喧嘩を授業中の教室で繰り広げてはみるけれどお互いどうにも口元がにやついていて締まらない。いや、全面的に琴音さんが悪い。俺は悪くない。絶対に。

「...お前ら廊下に立ってろ」
「「えっ」」

なんてこったい。何が悲しくて琴音さんと二人で廊下ランデブーしなきゃならねえんだ。琴音さんじゃなくて悠希とかならまだ全然ランデブーしても良かったいやむしろしたい。

「ちょっとさっくんのせいで私まで立たされてるじゃんどうしてくれんの!?」
「ふざけんじゃねーよ迷惑被ったのは俺だっつの琴音さんが先に吹っ掛けて来たんじゃねえか」
「はぁぁあ?さっくんがあんな顏文字...ふは」
「やめろ思い出し笑いさせんな」
「だって...さっくん地味に文字綺麗なのに...笑いすぎて震えてるし...」
「それは琴音さんも一緒だろうが」
「え?私の字が綺麗だって?知ってる!」
「黙れ」

まあいつぞやの時代のようにバケツ持っとけなんて言われないだけマシかなー、なんて言ってる琴音さんを横目にいつまでもこんなとこに律儀に立ってられるかと歩き出す。

「あ、ちょっとさっくん!どこ行くの!」
「おくじょー」
「うわあサボりだ」
「教室追い出したのは教師の方だろ」
「ひっくつー。でもノった!」
「は?何ついて来てるんですか」
「モンハン!モンハンしよう!」
「いや俺昨日RPG買ったからそっちするんで。琴音さん一人でモンハンどうぞ」
「うっわさいてー」

そう言い合いながらも数分後に着いた屋上で結局モンハンやるんだろうなあ、なんて呑気に思いながら斜め後ろの琴音さんを少し気にしながら歩く。そういえば今は四限だから対戦ゲームでもして負けた方が購買に行くのもいいかもしれない。勿論負ける気は更々ないが。そうこうしているうちに慎や悠希も来ちゃったりなんかして、まあ。






そんな日常も悪くはないかも







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