目の前に広がる海に違和感はなかった。今思えば海に来た覚えなんてないとかどうやって来たのかとかそれまで何をしていたのだとか色々思うことはあるのだけど、その時に違和感は抱かなかったのだ。
俺が立っていたのは何だろう、防波堤?とでも言うのだろうか、所謂アレだ。...なんだか上手く口で説明出来ないから君の想像力に任せるけど、海にコンクリートで作られている場所に立っていて砂浜に居た訳じゃなかったというのが言いたかった。
それで俺は何をしていたのかというと、海を見ていた。見ていた。淡々と海を見つめていた。誰かと一緒という訳でもなくて、ただ一人で海を見ていた。海から流れてくる潮風が心地よかったような気がする。

『落ちちゃうよ』

突如聞こえた声にも俺は違和感を抱くことはなかった。その声の主がいきなり前方の少し下の方、つまり海。突然現れたことも、海の上に立っていたことも。

『落ちそうなのはお前の方だろ』
『ううん、私じゃなくて君。君が落ちちゃうの』

そう言われて意味が分からなかった。意味が分からなくて首を傾げようとしたら、落ちた。

『うっ...わぁぁぁああああああああああああああああ』

叫んだ。ような気がした。
声が枯れるまで叫んで喉からは掠れた息しか出なくなって本当に叫んでいたのかすら分からなくなった頃、目を開けた。さざなみの音が聞こえて水の音がした。俺が倒れていたのは海だった。海の浅瀬の綺麗な砂浜に仰向けになっていた。視界いっぱいに満天の星が広がっていた。思わず息を飲むくらい綺麗な星空だった。

『だから落ちちゃうよって言ったのに』

声が聞こえて、次いで視界にさっきの声の主が、俺を覗き込むように現れた。俺を少し馬鹿にしたように微笑んでいる少女だった。さっきもこの少女を見て話していたはずなのにこんな少女だったのか、なんて思った。

『...普通コンクリに立ってて落ちるとか思わねえだろ』
『そうなのかな、私は普通って分かんないから』

そう言って俺の隣に、俺と同じように寝転んだ彼女は少し寂しそうな顏をしていた。それが俺は少し気になったのだけど何を言う事も出来なくて俺は空を見ていた。

『私は...なんだ』
『え、何て言った』

暫くの沈黙の後に突然彼女が発した言葉は大事な部分が聞こえなくて隣も思わず見たら、隣には白骨が寝転んでいた。俺の喉からは悲鳴が漏れると思ったけれどその白骨はきっと彼女なのだと思ったら悲鳴は出なかった。ただ、美しいと思った。

「何だそれ怖いな」
「なんか変な夢だったんだよ伝わったかねえ」
「全然伝わって来ないけど何かさあ」
「何だよ」
「その女の子お前みたい」





聞こえなかった『私は、君なんだ』








「何だその鳩が豆鉄砲食らったみてえな顏ーウケる」
「...お前が変な事言うからじゃねーかくそが」



















自分海を題材によく書いてるような気分ですが実際の海には殆ど行った事がありません。潮風とはどんなもんか知りたいものです。










prev next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -