「なんでそういう言葉ばっかり使うの」

僕は問い詰める。彼は僕を少し驚いたように一瞥して、くすくすと笑い始めた。何が可笑しいんだ。

「何の話かな」

彼は僕の問い詰めをひらりとかわす。僕は質問じゃなく問い詰めているのにこの態度。気に入らない。

「いっつもそうやって言葉の価値観を下げることばっかり言う。言葉をなんだと思ってるのさ」

彼は僕を流し目で捉えて軽い嘲笑(僕にそう見えただけかもしれないが)を浮かべた。僕は彼のそんなところが大嫌いだ。

「言葉の価値観ってさあ、人それぞれ違うんじゃない?君には君の、俺には俺の価値観があるんだからさ。それを俺に押し付けないでくれよ」
「でも君の言葉に不快になる人だって居るじゃないか、僕みたいに」
「へえ、不快だった?ごめんねー」

反省の色なんかちっとも見えやしない。これだから彼は嫌いなんだ。

「そうやって思ってもいないくせに言葉を吐いて」
「思ったことだけ口にしてたら、人間関係うまくいかないぜ」

極端な。そう思うのに彼を上手く言いくるめられるような言葉が見つからない。なんだこの負けたような感じ。悔しい。

「だから誰にでも好き、なんてこと言うの」

ずっと携帯に向いたまま時たま視線しかこちらに寄越さなかった彼が驚いた表情でこちらを向く。

「それこそ、俺が誰に好意を向けようと愛を囁こうと君には関係ないんじゃないの」

彼の目は僕にまっすぐ向いていて、でも何を考えているかなんて測り知れない。僕は彼の目から視線を逸らせなくて、でも見ているのもなんだか彼に見透かされているようで。だから結局僕は彼から視線を逸らして言葉を紡ぐ。

「だって、そんなに沢山言ってたら価値が下がるだろ。誰にも本当に取られなくなって、本当に伝えたい時に後悔するのは君じゃないか。」

彼は僕の言葉を黙って聞いていた。黙って、僕から目を逸らさずに。その目は彼らしくもなく真剣な色を帯びていて、僕の方が動揺してしまいそうだった。

「俺はわざとそうしてるんだけど。・・・なんかさあ、君が俺にそういう事言わせたくないって言ってるようにしか聞こえない」
「・・・は、」
「何、嫉妬してるの。可愛いね」

ああ、やめろやめろやめてくれ。僕の気持ちを見透かしたようなこと言うな。だから、だから君が嫌いなんだ僕は。

「君さ、俺のこと好きなんだろ」
「・・・違う」
「いや、違わないね。・・・いいこと教えてやろうか」
「なんだよ」

彼はにやりとした、彼特有の笑みを浮かべて得意気に話し出す。それを顔の熱が引かないままの僕は集中出来ないまま耳を傾けて。

「確かに俺は嘘も吐くし世辞も言う。言葉なんて薄っぺらくて何の意味も成さない。・・・それでもな、人間は言葉でしか何も表現出来ないんだよ」

だから俺は言葉が好きで、だから俺は言葉を使う。その言葉は納得がいくような、納得がいかないような。きっと僕が理解出来なかっただけ。でも結局そんな彼が僕は、好き、なんだろうと思うと。恥ずかしいような、嬉しいような、暖かい気持ちが胸に広がって。なんだ僕が問い詰めたはずなのに彼は変わらないし僕は彼が好きだと再認識するし散々じゃないか。そのままソファに腰を落として目を閉じた。





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