太陽が輝く。眩しい気配のようなそれを瞼が感じ取って僕は目を微かに開いた。既にカーテンは開かれていて、視界に侵入してきた日光が目を刺す。そのまま再び目を閉じてしまいそうになるのを堪えて体を無理やり起こした。昨夜隣に寝ていた筈の彼女は其処には居らず、一瞬焦りを感じるがカーテンが開いているということは既に彼女が起きて開けたということだと思い立ち焦燥を抑える。

「おはよ」

聞きなれたソプラノに心地よさを感じながらベッドから降りて挨拶を返す。それだけで日常という幸せを噛み締めることが出来る。

「もし、昨日僕の仕事が長引いてたら」

彼女は朝食を手際よくテーブルに並べていきながら僕の言葉に耳を傾けているようだった。

「今頃会社で朝を迎えてたかもしれないし、他にも帰り際に何かあって僕が帰れなかったりしてたら」

そこまで言って彼女の表情を伺う。彼女は随分と落ち着いた表情で、並べ終わった朝食を一瞥。そして僕に顔を向けると「かけましょう?」と微笑んだ。僕は彼女に促されるまま椅子にかけると彼女に倣って手を合せる。

「いただきます」

その言葉に僕も微かに同じ言葉を紡ぐ。そうして朝食に手をつけ出すと彼女は、それから?というような目で僕に話の続きを促した。僕はその流れのままに再び口を開く。

「もし、そんな事が起こってたとしたら、今ここに僕は、いないわけで。そうしたら、こんな、君と一緒に朝を迎えて、君の作った朝食を食べて、なんていう普段なら当たり前のことだって」

そこまで言って存外自分が感情的になっていることに気付いた僕は一旦深呼吸をして、彼女の目を見つめてみた。彼女は僕の突然の問い掛けに対して酷く真剣に考えてくれているらしかった。だからかもしれない、僕はそれ以上言葉を紡ぐ事ができなかった。

「・・・この際、そんな悲しいこと言わないで、なんて問題じゃないのでしょうから、」

そこまで言って彼女はまた考えるような表情。どうにも言葉を探しているらしい。

「例えば、今私達が過ごしてる日常というか、幸せというか、今の状況ね。それは貴方が言ったように簡単に崩れてしまう可能性を常に秘めていて。人々はそれをすぐに忘れてしまう事が多いのかもしれない。そんな不幸は自分には関係ないって、どこかで思ってる人ばかりかもしれない。でも、だからこそ本当は、こんな風に一緒にいられる、それだけの事を、当たり前かもしれないことを大切にしなきゃいけないんじゃないかしら。だって、当たり前のことかもしれないけど、今、とても幸せでしょう?」

確かに、そう。今僕はとても幸せだ。こんな日常こそが幸せだと、人間は気付くことが出来るのだろうか。僕のように、それを教えてくれる人に出会える人はどれくらいなのだろうか。そう思うと僕がどうしようもなく恵まれた人間のように思えて、彼女の言葉と食事を噛み締めたまま咀嚼し続けた。




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