「じゃっ!行ってくるわ〜」
「いってらー。暴発して帰ってくんなよー」
「下品な上に怖えこと言うんじゃねーよ!!」
ある島に上陸した我がハートの海賊団。この島でのログは約一週間程。比較的治安が良いらしいこの島はたまの休息を取るにはもってこいの場所だった。
評判の酒場でいつも通りの到着記念と称した宴のあと夜も更けた頃には見張り番で残る者以外は街の繁華街の方へ消えていくのが船旅の常だった。
まあ要するに娼館ってとこに行く訳である。私だって経験は無くとも十代の小娘ではないので理解はしている。男は大変らしいからね。男だらけでずーっと船旅してるんだからそういう所に行きたくもなるんだろう。なので私は何も言わず、心の中で病気だけは貰ってくんなよと忠告をして生暖かい目で船員を見送ることにしているのだ。
「あれ、船長まだ居たんですか」
「まだとはなんだ」
「いやてっきり酒場で熱視線向けてきてた踊り子さんと既にしっぽりいってるかと」
「てめえ下品すぎるぞ」
「いだだだだだ!!さーせん!!!」
水でも飲もうかとラウンジに向かうと椅子に腰掛けて本を読んでいる船長に出くわした。てっきりそのまま酒場から夜の闇に消えてったと思っていたので少しだけびっくりした。また断ったのか。あの踊り子さん綺麗だったのに。
そして思ったことをそのまま告げると久々にアイアンクローを食らった。いつ食らっても痛い。船内はほとんどのクルーが出払ってしまいラウンジに居るのは私と船長の二人だけだ。そういや船長はなんで行かないんだろう。こういう時船長はいつも行ってない…気がしてきた。あれ、船長まさか、そんな…!
「そういや船長いつもこういう時船に居ますね…?」
「…だからなんだ」
「…!いえ、私その、偏見とかないんで」
「おい何を勘違いしてやがる」
「いだだだだだだだ!!ギブギブ!!」
察しの良い船長は私の余所余所しい態度で直ぐに思い当たったらしく先程よりも三倍くらいの力でのアイアンクローが私の顔面に炸裂した。痛い!!もう!気を遣っただけなのに!!!
「あああもおおお痛いっすよおお!!」
「お前が変な勘違いするからだろ」
「…要はちゃんと女の人が好きってことでいいんですか?」
「……それで何か問題でもあるのか」
「いや、なら尚更なんで行かないのかなーって」
バツの悪そうな顔で本をバタンと閉じた船長。ラウンジ内に何だか不穏な沈黙が落ちる。あれ、これたぶん余計なこと聞いたな私。船長の性処理事情とか確かに触れなくてもいい話題に触れた自覚はある。別になんだっていいんだし。てかアブノーマルな可能性のが高いし聞きたくないな。なんで余計なこと聞いたんだ自分!
「あー…、余計なこと聞きましたねデリカシーなかったです。すみません忘れてください」
「お前にデリカシーなんか期待してねえ」
ぐうの音も出ないとはこのことか。とりあえず黙ることにし、船長にコーヒー飲みますかと提案すると無言で頷いたのでサイフォンの準備を始めた。船長はこの部屋から出て行く様子はなくまた本に視線を落としたので私がコーヒーを入れる準備の音だけがラウンジを支配している。…気まずいなちくしょー。
「…名前」
「、はいっ?」
フラスコのお湯が沸騰する様子を食い入るように眺めていると船長からいきなり名前を呼ばれて現実に引き戻された。閉じられた本に肘をついていることからしばらくこちらを伺っていた可能性が無きにしも非ず。完全に現実逃避してたわ。
「俺が島に行かない理由だが」
「……はあ」
「素人の女は一回寝ると俺の女気取りをする奴がいて鬱陶しいのが一番の理由だ」
「あー…なるほど。モテるのも大変ですね」
「かといって娼館の女は好みじゃねえ。だから行かない。」
「ふんふん。なるほど。じゃあ船長の好みってどんな人なんですか?」
「…めんどくさくねー奴」
「はは、めんどくさくない女なんかこの世に居なくないですか?」
コポコポと沸くお湯の音をBGMに船長と謎のコイバナをしている意味不明な展開。先程のような気まずさはないがなんだか変な感じである。挽いたコーヒー豆を加えて混ぜながら船長を見やるとなんだかいつもより幼い表情をしているように見えておかしかった。なんか今日の船長可愛いな。どうした。
「…お前でもめんどくさくなるのか」
「さあ?私は今まで恋愛なんてしたことないんでわかんないですけど。まあでもなるんじゃないですかね。一応私も女の端くれですし。女ってのは総じてめんどくさい生き物ですから」
「怖えな」
「そうですよ。変な遊び方したら刺されますよ」
「肝に銘じておく」
出来上がったコーヒーを船長専用のカップに移して船長の前に置くと船長の手が伸びる。てっきりカップを取るもんだと思っていた手が何故か私の手首を掴んだためはてなマークが私の脳内を占領した。は?なんで掴まれたんだ?
「ほっせー腕」
「…え、なんすか一体」
「お前は多少めんどくさくなるくらいが丁度いいかもしれねえな」
「……なん、」
「俺も十分めんどくさい男になっちまったようだ」
掴んでいない方の手でするりと指を撫でられる。その感触がいやに厭らしく感じて顔に熱が走ったのがわかった。なん、なんなんなんだ一体!言ってることは全然わかんないし向けられる視線はなんか妖艶だし、船長は元がいいんだからそういう変なことしないでほしい。こっちは訳がわからないまま翻弄されている気分になるのだから。さっきまでの可愛い船長は何処にいったのだ!フェロモン!フェロモン大王!
「セ、セクハラ、ですよ!」
「そっちの世界の言葉はわかんねえな。」
「なんとなく解ってるくせに!もういいからしまってくださいよそのはみ出てる色気!!」
いつだって一枚上手
(からかうのもいい加減にしてほしい)
omk
「あれ?キャプテンと名前居たんだ」
「、べぽっ!」
「わ、名前?どうしたの真っ赤、」
「船長に弄ばれた!もうお嫁にいけないっ!」
「え!?」
「誤解を招く言い方するな」