「…」

「きちゃった」


休日の一日練習を終え、笠松先輩の家に遊びに行こうという森山先輩の案のもと、嫌がる笠松先輩を無視し実行に移した森山先輩と俺。うわーすっげー不機嫌MAXっスねこれ。(押しかけ彼女的な森山先輩の一言が更に苛立ちを加速させたくさい)
ふざけんな!と練習中顔負な剣幕で怒鳴る声に、笠松先輩のママさんが慌てて飛び出てきて。俺と森山先輩を見るなり喜んでどうぞどうぞを迎え入れてくれた。想定外の事態に笠松先輩がため息を吐いて頭を抱えていたのは見なかったことにしようと思う。笠松先輩申し訳ないっス。


「うおっギターがある!」

「こいつの趣味なんだよ」

「へー!意外っスね!!」

「うるせえよ」

「CDもたくさんあるしなー。あ、これ貸して」

「勝手にしろ。」


階段を上がったそばにある部屋に入ると、きちんと整えられた部屋がなんとも笠松先輩っぽい。綺麗に並べられた月バスとCDたち、立て掛けられたギターにマーシャルのアンプ。まさに健全な高校生男子の部屋、というかんじ。にしてもギターは意外っスほんと。

各々月バスを読んだり、エロ本を探したり(これは森山先輩っスから!もちろん鉄拳食らってましたけど)と自由に過ごしていたら、ママさんが夕食を部屋まで運んでくれて。一人暮らしなせいで誰かの手料理自体が久々な俺は一瞬泣きそうになった。旨いっスと鼻を啜る俺に、笠松先輩が肉じゃがを少し分けてくれた。(森山先輩はそ知らぬ顔してた。俺はやっぱ笠松先輩について行くっス)

ママさんの手料理を食べ終え片付けを手伝ったのもつかの間、ノックせずにガチャリとドアが開く音がして。
びっくりして扉の方を見やると小柄な女の子が大きな目をこれでもかと見開いて仁王立ちしていた。…どなた?


「キセリョくんがいる!!」

「!?」

「…お前勝手に入ってくんなよ。ノックしろ。」

「いつだってしてないじゃん」

「それをいつもしろって言ってんだろ」

「名前ちゃーん。相変わらず可愛いね」

「あはは、森山くんも相変わらずだね」

「名前ちゃん手厳し!」


呆れ気味の笠松先輩をよそに、知らなかったんだからしょうがないでしょーとむくれる女の子。てか笠松先輩が女の子と普通に喋ってるんスけど…!?


「黄瀬、びっくりしてる?」

「は、はいっス」

「彼女は名字名前ちゃん。笠松が唯一ちゃんと話せる女の子だよ」


未だに言い合いをしている二人をただ呆然と眺める。森山先輩曰く、二人は生まれたときからの幼馴染みというやつらしい。家も隣だそうだ。青峰っちと桃っちみたいなもんスかね。いくつなんスか?と森山先輩にこっそり尋ねると、笠松の隣のクラス。俺らとタメだよ、という驚愕の返答があった。先輩に失礼っスけど、全く見えないっス。


「で、お前はなにしに来たんだよ」

「ベガスの新譜借りにいくって学校で言ったの忘れたのー?」

「…あー」

「もー。勝手に借りてくからね!てか!キセリョくん!」

「、はいっス!」

「はじめまして!うわー、間近で初めて見たー!やっぱり綺麗なお顔ね?ゆっくん!」

「知らねえよ」

「(ゆっくん…?)」

「ゆっくんがいつもお世話になってますー、部活中とか乱暴されてない?」

「へ!?」

「名前てめえ…」

「ほんと小さい頃から乱暴者でねえ、っていひゃいいひゃい!ほら!ほれはよ!」

「なに言ってるわかんねえ。あと人前でゆっくんて呼ぶのヤメロ」

「うー、ほっぺ痛いぃ」

「(笠松先輩扱い慣れてる)」

「でもね優しいとこもあるから、仲良くしてあげて?」

「あ、はい、」

「お前は俺の母親か」

「てか名前ちゃん、自分の自己紹介してねえから」

「はっ!忘れてた!」


小柄な身長もそうだがくるくると変わる表情が更に彼女を幼く見せているようで。その飾らない豊かな表情が面白くてついつい噴出してしまった。


「ぷっ!」

「はれ?」

「おい笑うなよ黄瀬ー、こんなちっさくても先輩だぜ?」

「ちっさいは余計だよ森山くん!みんなが私を置き去りにしていっただけだよ…」

「あははは!ダメっス!名前さん可愛い…!」

「えっ!?」

「笠松いいのかー?名前ちゃん黄瀬に可愛いって言われて固まっちゃったぜ?」
「アホばっかりだな」

「ゆゆゆゆっくん!キセリョくん危険…!ラブラブボンバー…!」

「日本語を喋れアホ」

「察してよおおお!」

「ひー!もうやめて…!」

「黄瀬が壊れた」



新しい世界へこんにちは
(面白い人、それが第一印象)

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